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「滝島さん。救急車を呼んでくれ」
管理人は異常な様子だった。薄くなった頭皮は脂汗でにじみ、分厚い唇はずっとわなないている。
顔面蒼白――
まるで、見てはいけないものを見てしまったように狼狽している。
「救急車? どうしたんですか」
玄関のドアノブを掴んだまま、滝島貞雄はたずねる。せっかく息子と夕飯のカレー作りを楽しんでいたというのに。
「お隣の並木さんが・・・・・・死んだ」
「えっ」
それから十五分後。
貞雄の119番通報により救急車がやって来た。赤色灯を回しながらアパートの前の細い道に停車した。
冬の寒空の下とはいえ、慌ただしい空気に野次馬が群がっていく。
担架に運ばれた隣人の並木寿枝は、すでにこの世の者ではない面相で運ばれていった。
55歳と聞いたことがあるが、魂の抜けたその顔はもっと老けてみえた。
通報者である貞雄は、救急隊員から詳しい状況を質問された。
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