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並木は保管場所を忘れてしまったのか、それとも失くしてしまったのか。
命に関わるそんな重要な物を?
貞雄は並木寿枝のゆでたまごのような丸い顔を思い出していた。
「パパおかえり〜」
部屋に戻ると、息子の輝也が駆けよってきた。並木が死んだことは知らない。
「遅くなってごめんな。今日はもう寝よう」
貞雄は輝也を持ち上げて抱っこした。
パジャマの柔らかい繊維から、園児特有の甘い匂いが香った。
「ピーポーピーポー鳴ってたね、どーしたの」
「お隣の並木さんがな・・・・・・」
そこまで言いかけて、貞雄は口を閉ざした。
息子に並木の死を伝えるのはあまりに酷だ。
貞雄の妻、つまり輝也の母親が他界して以来、息子は並木を母親代わりに慕ってきた。
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