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並木は本当に面倒見のいい隣人だった。
数年前に夫と息子をなくし、家を売り払いこのアパートに越してきたという。
五十を過ぎて孤独になった人生。
そのこともあってか、並木はよく料理を作っては持ってきてくれた。
仕事で忙しい貞雄の代わりに息子を預かってくれたり、一緒に遊んでくれたりもした。
保育園のお迎えさえも引き受けてくれたことがあったくらいだ。
貞雄は感謝を込めて、
『並木さん。いつもすいません。少ないですがこれを』
お金を渡そうとしたこともある。
だが並木は優しい笑みを浮かべて
『輝ちゃんには元気をもらっていますから』
と、そのお金を拒否した。
彼女の存在は大きかった。男一人ではまかなえない部分を、並木はすべて引き受けてくれていたのだ。
彼女の死に悲しむ自分。
今後の生活を冷静に考える自分。
貞雄の心にさざ波が広がった。
「ねえ、並木おばさんがなに?」
息子の声でわれにかえる。
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