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10年後の僕たち
光都くんを引き取って育て始めて早いもので10年がたった。
光都くんは20歳、僕は37歳になっていた。
あれから、光都くんは女性に会うとフラッシュバックで
震えが止まらなくて息苦しくなるという症状に苦しんだ。
そして、小学校を転校することに決め学校に事情を伝えて通級のような形で通うことになった。
そこでの彼は、勉強の楽しさを知ったのかどんどん知識を吸収して今ではレベルの高い大学を合格するまでに成長した。
高校では男子校に行ったのが良かったらしく、友達ができてとても楽しそうだった。
一方の僕は、光都くんの背後に篤人を感じてしまって辛くなることがあったものの、何年も経てば光都くんの成長を感じると嬉しくて、温かい気持ちを感じるようになった。
喧嘩もしたし、反抗期だってあった。僕は不安定だった光都くんが気持ちをぶつけてくれたことに安堵したのを覚えてる。
だけど、中学2年くらいから俺に触れられるのを嫌がるようになり、すこし悲しくもなった。だけど、変わらず俺を心配してくれたり、家事を手伝ってくれたりしていたので嬉しくもあった。
そんな光都くんと一緒に暮らすのも今日で最後だ。
大学生になる彼は、自宅からだと少し遠い学校に行くためこの4月からは、この家をでて一人暮らしをす
「なんだか、すごく寂しいな。」
僕は光都くんの部屋をぐるっと見回して、大事に育ててきた彼がいなくなることを実感する。
「もう、、、滅多に会えなくなったりするのかな。」
ポツリと言葉が溢れていく。
大学生になるのだ。あの、小さな身体で自分の母親と離れる覚悟を決めて、気持をまっすぐ伝えた彼が。
フラッシュバックになる度に、何度も抱きしめて背中をさすったら、ふにゃりと笑っていた彼が。
触らないで、と言ったくせに僕の負担が減るようにと
気を使い、手伝ってくれたり心配してくれた彼が。
もう、僕の元から旅立つのだと
空っぽになった部屋を見てしみじみとした気持ちになる。
「聡太さん。引っ越しの荷物はまとめ終わったよ。」
そう声をかけられた僕は、振り向いて部屋からでる。
どうしよう、、。寂しいな。
「なあ、聡太さん。俺さ、聡太さんに会えて
育ててもらってさほんとに感謝してる。」
「なんだよ、改まって。ちょっと照れるじゃないか。」
光都くんが、ぐっと拳を握りしめて声を震わせているのに気づいた僕は、驚いた。
「あ、あのさ、、。おれっっほんとに聡太さんが大好きなんだ、、。」
「嬉しいな。僕も光都くんが大切で大好きだよ。」
親に虐待をされていた光都くんと生活するにあたって
彼に愛情を注ぎたいと思った俺は、ずっと気持ちはストレートに伝えるようにしていたため、『大好き』ということも頻繁に伝えていた。
だけど、、この時の大好きは違う意味だったみたいだ。
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