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仲村の話では鬼の稲葉は俺から自然と漏れてしまう声に反応してくれていた。朝宮さんが稲葉課長から聞いたのは、俺から独り言が出ると指示を出していたとか。
それって本当は優しさって事なんじゃないだろうか。
「でもな〜、いつも怒ってるように感じる」
「それはカモノハシ君がそう見るからじゃない?」
朝宮さんがニヤニヤしながらそう返事をくれて、何となくそれもあり得る話なんじゃないかと。
でもな……。
「男と男で……そんなっ!あんな事を?え?どこにどう?それとも口かな?まさか尿道?いやいや尿道に挿るのは箸くらいだろうし。え、箸くらいの大きさだったりして?んな事ないだろ、あー、だったらもうやっぱりそこしかないよな……アナ」
「カモノハシ!」
「はい!」
「飲み放題残り10分」
「はい!」
稲葉課長が焦ったように言ってきて、俺は残り10分という時間を無駄にしないようビールを飲んだのだが、何も焦る必要はなかったらしくて、幹事は1時間の延長をしたのだった。
「観てね、大海原男山」
「おお…うなばら……じゃんじゃん」
「お、酔ってる。いいね、稲葉と場所変わってあげるからね」
大海原男山を見えないようにリュックに仕舞った。そして何故か、ふわっふわする。
「病気かもしれましぇん」
「病気ではないだろ」
「ひっ!」
「ひっ、てなんだよ、失礼な奴だ」
「ヤバイ黙らなきゃ、狙われているー」
正面を見ればさっきまで隣にいた朝宮さんがニヤニヤしながらこっちを見ていた。その代わり鬼の稲葉が隣に座り、呆れた目を向けてくる。これはもう完全に狙われていると思って間違いない。でも稲葉課長って……。
「ゲイだったんでしゅか」
「え?俺?それ朝宮だろ?俺は違う」
「じゃあなんで俺なんか狙うんでしゅか」
「……なんで? なんでそうなった?」
「俺、アナルしかないでしゅよ」
「ちょっ!バカ!言うな!口に出すな!」
「アナルで良かったら」
「だから言うな!」
「何とぞ、何とぞ、おてやわやわに」
「お手柔らかに、って言うかカモノハシ、根本的に間違えている」
顔を合わせれば困惑した稲葉課長と目が合って、そのまま稲葉課長のグレーっぽい瞳が朝宮さんを睨みつける。稲葉課長……。
「100人乗っても」
「カモノハシ、童貞なんだからそっち系を朝宮と話すな。朝宮に無理やり扉を開かれるぞ」
聞き捨てならない言葉が綺麗な唇から出てきたはずなのに、俺は瞼が急激に重くなって反論することも出来なくなった。
「寝るならジョッキから手を離せ」
「んー」
「おい、寝るならジョッキから手を離せって!溢れるだろ!カモノハシ!」
「マイ、ジョッキ……」
あー、なんかお腹冷たい、でもこの人……。
「いいにおいする〜」
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