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指で人数を数えていく。俺の好みはふわふわしたちょっとぽっちゃりめな女優さんたちだ。
「んーと、1234……」
「はいはいはい、わかった。もういいよカモノハシ君」
「あ、いいんですか?なんだ、言いたかったなー?あは、残念です。あははは」
よし、脱出成功。
あとはビール攻略に集中出来そうだ。俺は今日、この店を潰してやるつもりだ。
「ちょっとごめんねー?」
「へ?」
隣に腰を下ろしたのは朝宮さんだった。何だか顔がニヤニヤしていて、いつものように爽やかじゃないからよく見えている。自分のハイボールをクイッと飲んで俺と視線を合わせると、爽やかさが無くなった男は顔を近付けてきた。
「素直で、何より想像が豊かだもんね、カモノハシ君は」
「素顔で増毛が豊か?」
「ん?まあ、いいや。そうそう、脳内散歩だっけ?仲村から聞いたけど、それってさ、素直だし想像力が豊かな証拠なんだよ」
「……ありがとうございましゅ」
「じゃあ素直なカモノハシ君、目の前にいる男見てごらんよ」
「目の前の……男?」
言われた通り見ればそこに座るのは稲葉課長。鬼の稲葉と俺だけに言われている課長は、チーンとなった表情のまま祠と呟き固まっている。
「チーンだべ」
朝宮さんはクスッと笑いまた囁いてくる。
「稲葉って上手そうだと思わない?」
「上手そう?何がだ」
「あは、何がだ、だって。あんな冷たい顔した男もきっとエロいことするんだよ」
「え?え?稲葉課長が?」
「そうだよ、すっげーエロいことしそうだろ?」
「稲葉課長が……エロ、仙人」
想像すると喉がゴクリと鳴った。そして稲葉課長と目が合うと脳内に彼の過去が自動再生される。
『カモノハシ、いや倫也、また発注計画がズレてしまって……頼む、お仕置きしてくれ』
『随分と余裕じゃないか、カモノハシ、いや倫也、俺はもうこんなになってるのに、酷いじゃないか、あぁっ!』
『笹かまと点滴したいくらいのずんだシェイクを俺に挿れてくれ!カモノハシ、いや倫也』
え?そんな過去あったっけ?と思うが、若干聞いた事がある台詞が脳内で何度もリピートされていく。
「俺が……稲葉課長を……抱く?」
「いや違う、違う、違う、そっちじゃないから」
「え?」
「誰もそっちだと思ってないから、絶対誰も思ってないから」
呆れた顔でそう話す朝宮さんは逆だからと小声で囁く。
「逆?それって俺が何かとんでもない事をされるんで?」
「嫌だな、此処でそんなの言えないよ。これあげる」
「え?なんですか?これ」
「大海原 男山」
「なっ!!」
ゲイビじゃないかっ!なぜこんな物を、なぜ今持っているんだ?
「昨日恋人から没収したやつ、カモノハシ君にあげるよ。稲葉、カモノハシ君を抱きたいって思っちゃうかもよ?」
「───ッ!?」
稲葉課長と目が合うと片眉を上げて祠と呟きじっと見てくる。確かに、確かにグレーかかる瞳は俺を狙っている気がしてきた。
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