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ホテル
この日、仕事帰りにたまたまパン屋に寄った尋子は、三十分ほど帰りの電車を遅らせていた。拓也と尋子は、駅で落ち合うことにした。
拓也は家で見たことを細かく尋子に話した。嘘にしては大げさ過ぎるし、拓也がそんな嘘を付く性格ではないことを一番理解していた尋子は、信じる以外の選択肢が無かった。
呆然と立ち尽くす尋子の耳には、改札を行き交う人や駅構内のアナウンス、駅前のロータリーに侵入する車の騒音など、一切聞こえていなかった。拓也の八つ年上であるが、突然訪れた悲劇に動揺しパニックを起こしていた。
拓也の提案で警察に連絡することにした。二人は現場検証に呼ばれ事情聴取されたが、犯人ではないと直ぐに判断され解放された。二、三組の報道関係者が来ており、尋子は半ば強引にインタビューされていた。
殺人現場となった家で一晩過ごすことを尋子が厭がったため、二人は駅前のビジネスホテルに泊まることにした。二人部屋を借り、手続きを終えた二人は部屋に入ると、尋子は何も言わず手前のベッドに上がり布団を被ってしまった。拓也はベランダ側のベッドの端に座った。
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