モンスター

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 ついにAにも攻撃の手が伸びた。Aに向かってライフルを構える男が視界に入った。引き金に掛けた人差し指に僅かに力が入った次の瞬間、Aは男の背後に回っていた。男の身長はAの二倍はある。サバイバルナイフを構えてはいるが、傷付けることができない。男は咄嗟に振り替えり、引き金に掛けた指を引き寄せた。Aの躊躇いが悲劇を生んだ。銃弾に背を向けたJ3が、Aの目の前で盾となったのだ。  Aは叫んだ。  声は出なかった。  口だけが動く。  だが確かにこう叫んだ「J3!」。 「お前ならできる。作戦通り……やるんだぞ――」そう言ったJ3はAに覆いかぶさるように倒れた。  銃を乱射した男は、二人とも仕留めたと判断し、倒れた屍に背を向けた。刹那、男の瞳に静かに佇む少年が映った。自分の背後で死体となったはずの一人が目の前に立っていたのだ。少年の口角は不気味な笑みを見せている。男は首の付け根が冷たくなる感覚を覚えた。雨など降らない砂漠で霧のような水滴に見舞われる。赤い虹だった。寸分の狂いなく頸動脈のみを切られた男は痛みすら感じることなく地面に倒れた。
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