モンスター

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 それから数分の出来事だった。百人いたテロリストは全滅した。Aが手をかけた相手は皆、頸動脈のみを切られた。それ以上の動作は必要ない。まるで創作ダンスを披露するように、芸術とも言える、美しく流れるように無駄のない動きだった。  Aの口角は笑みを保ったままだ。目尻は吊り上がり、数分前の幼い少年の顔付きはどこにも無かった。そして、この奇襲作戦はα隊の勝利に終わった。生き残ったAただ一人を残して──。  Aが戦闘に加わった時に生きていたα隊の仲間は、Aによって全滅した。彼はこの戦場にいた全ての人間を抹殺したのだ。本部の上層部は、この戦闘の一部始終を、カメラを備えた昆虫型のマイクロロボットを使い監視していた。Aは、戦地に入った時からそのロボットの存在に気付いていた。上空を舞う昆虫型ロボットのカメラを鬼人のように睨みつけるAは、こう言った。 「Death(殺す)――」  言下、サバイバルナイフを昆虫型ロボットに命中させる。真っ二つに割れ本部は通信を失った。一方本部では――。 「上官、彼の特殊工作員の成績はトップです。天性ともいうべき素質であらゆる戦闘スタイルを身に着けた、いわば天才です。しかしまだ十歳。恐らくは、初の実戦で精神が分裂したのかもしれません」 「そのようね。敵味方の区別も出来ないようでは、使い物にならないわ。能力は惜しいけど、私たちにも牙を向くようでは、危険な男でしかない。モンスターと化したようね」 「如何いたしましょう?」 「追放よ。すぐに処理してください」 「承知しました」  追放とは、これまでの記憶を書き換えられ、戦いとは無縁の世界へ置かれる。Aのように子供の場合、本当の家族と思い込ませ、両親、兄弟のいる家庭へと送り込まれる。戦闘に生きる世界から見れば、言わば追放だった。
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