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朝食
────二〇二五年三月
中学三年生となった雪島拓也は、短い春休みが終わり、この日が始業式だった。食卓にはいつもの朝食が顔を並べている。トースト、生野菜のサラダ、茹で卵、牛乳。見かけない顔ぶれもあった。リンゴだ。どうやら姉の尋子が剥いてくれたらしい。この年に二十三歳となる尋子は社会人三年目だ。短大を卒業してアパレル業の仕事をしている。
「おはよう」と、キッチンへ入ってきた拓也に母が言った。拓也は小さな声で「おはよう」と返す。父は洗面で髭を剃っている。姉はテレビのリモコンを探していた。ソファーに乱雑に置かれているクッションを持ち上げ、ようやく見つけたリモコンでテレビを点け、報道番組にチャンネルを合わせた。この日も殺人事件のニュースが飛び込んでくる。
「うわ。昼間の民家に強盗だって。居合わせた住人は殺されちゃったみたい。物騒な世の中になったわね。お母さんは家にいる時間が長いから気を付けてね」
「はい、はい。大丈夫よ。狙われちゃったら気を付けようがないけどね」
「そんなのダメよ! 私、厭だよお母さんいなくなるの」
「あんたは心配症なのよ」
「もう、楽観的なんだから!」
そんなやり取りをしている二人に拓也はボソリと呟いた。
「僕も、母さんいなくなるの厭だよ。僕は父さんも姉さんも、誰も失いたくない」
「何言ってるのよ拓。姉の私がいなくなる訳ないでしょ!」
「姉さんは綺麗だから」
「そうよ。母親の私が言うのもなんだけど、あんたは美人だから、あんたこそ狙われないように気を付けなさいよ!」
「へ~い。別に私、普通だけどな――」
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