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父が洗面所からキッチンへ戻ってきた。途中から話を聞いていたようだ。
「俺からすれば、みんな気を付けろよ。道を歩いているだけで後ろからブスリ、ってこともあるからな。特に拓。お前は運動神経が鈍いし、いつもボーとしてるから」
「僕? 運動系は苦手だけど、そこまでボーとしてないよ」
「そうか?」
「そうだよ」
他愛もない会話だが、拓也はこの日常に満足していた。ずっと続くと思っていた。特に姉は家族ですら美人と思える容姿の上、優しく弟想いで、彼は絶大な信頼を置いていた。
「さあ、朝御飯を食べましょう」
母の号令で皆席に着いた。毎朝恒例の、皆で「いただきます」を言う。
「母さん、塩を取って」
「ピンク岩塩と、粗塩どっちがいい?」
「今日はピンク岩塩にする」
母は小瓶を拓也に渡した。「やっぱり、ゆで卵には塩だよね」と言って殻を剥いた卵のてっぺんにパラパラと振り掛ける。
「旨い!」
拓也は顔を綻ばせた。姉は瞼を半分落とし「ゆで卵のどこが美味しいのよ」と言って拓也の行動を眺めていた。
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