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帰宅後
始業式だというのに午後から授業があった。放課後は部活。五月に向け、新入生を確保するための作戦会議を行うと、部長から号令が掛かったからだ。
拓也が所属する部活はパソコン部。主にゲームアプリ開発を目的とした活動をしている。部の中でも特に親友と言えるほど馬が合ったのは、同じ二年生の岩井由紀恵だ。
パソコンが恋人と自称するほどインドア派で、女子っぽさに欠け、前髪を気にするような周囲のクラスメートとは異なる人種だった。どちらかというとオタクであり、気負いすることなく話せることが、大人しい拓也に合っていた。
彼女の趣味はインターネットを使った情報検索なのだが、その能力がずば抜けている。どんな内容でも高い確率で即座に探し当てるのだ。父親譲りの特技らしい。
この日決まったことは、作成したゲームのデモンストレーションをやる、ということだった。
部活を終え岐路についた拓也が腕時計に目を遣ると、既に十八時を過ぎていた。
「ただいま」
玄関に入った拓也は、靴を脱ごうと右足の踵を持ち上げる。ふと下駄箱の上に置いてあるフォトフレームが倒れていることに気付いた。それ以外は特段いつもと変わらない。部屋の電気も灯いているし、夕飯の匂いもする。たまたま倒れたのかもしれない。
でも──
理由は分からないが、何故か胃の奥の筋肉が強ばりをやめない。頭の中の危険という恐怖が警笛を鳴らしている。幼い頃から拓也は、危険と感じる空気に敏感だった。
靴を脱ぎ、息を潜めてキッチンへと続く廊下へ上がる。廊下の壁に背を這わせると、入口までゆっくり進んだ。入口の一歩手前で立ち止まり、生唾を呑み込んだ。そっと中を覗き込む。
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