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口を固く結び直立の体制を取る佐伯の耳元で「"Good" いい子だ」と囁いた。
途端に、佐伯は頬を赤らめてとろんとした表情になった。こういうのを繰り返す都度、Domなんてただの奴隷だという実感が増す。ただ、自分のコマンドに従うSubを見れば股間が疼くし、突っ込みたくはなる。そこは本能だ。
小野寺は佐伯が持っているカードキーが入った小さな封筒を取り上げると、書かれた部屋番号を確認し、佐伯に目もくれずエレベーターホールの方へ向かった。もちろん佐伯は、嬉々として後を付いてくる。
とりあえず佐伯というSubを使って、Domとして溜め込んだモノを解消できるのなら、それでいい。
もう何もかもが面倒でしかない。
「すっきりしたあ」
佐伯がそう言いながら、タオルで髪を拭きつつシャワーから戻ったので、小野寺はミニバーから水を取り出して、渡してやった。そして、タオルを取り上げて、頭を拭いてやった。SubのケアはDomの常識らしい……知らんけど。
佐伯は、さっきまでのプレイとその後のセックスで満足したようだ。小野寺の足元に座り込むKneelの体勢で、奉仕を受け、寛いでいる。
佐伯がプレイ用に自分で持ち込んで愛用している赤いカラーは、今どきのデザインのおしゃれなものではなく、秋田犬にでも使えそうなくらいのガッシリしたものだ。佐伯のような優男には全く不似合いだが、本人はこれでなくてはダメらしい。
「小野寺って、いいDomだよなあ」
突然、佐伯が感慨深げに言い出した言葉に、小野寺は面喰った。
「は?」
「自分では、そう思わないのか」
「どこが?、だ。俺なんて出来損ないのDomだぞ」
「へえ、お前、自分ではそんな風に思ってるのか。お前のコマンドのセンス、悪くないぜ。こっちの方もデカくて長いし、保ちもいい」
そう言って、佐伯は自分の目に前にある小野寺の性器を軽く扱いた。
「……バカか」
佐伯の明け透けな物言いには、小野寺もあきれる。
佐伯は全身脱毛をしていて、陰部も無毛だ。カラーだけを付けた全裸姿の中心に、隠すものがない性器が寝転んでいる。小野寺が以前戯れに「俺も脱毛してもらおうかな」と言ったら、強力に拒否された。Domが無毛なんてありえないんだそうだ。
思えば、佐伯とは不思議な関係だ。
そもそもお互いにDom/Subのパートナーという認識は一切ない。小野寺は、佐伯に対して「守りたい」「世話をしたい」「可愛がりたい」という、Subに対してDomが抱く感情を持つことは無かった。
プレイ上の成り行きと、お互いのダイナミクスや性欲の解消のため、セックスに至るが、恋愛感情などさらさら無い。そういう意味では、一番近い言葉はセフレなのかもしれない。
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