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午前十一時。この町に桜が咲いて初めての週末。空は快晴。雷なんて鳴りそうにない。待ち合わせ場所の駅前の噴水広場に現れた奏汰は、あたしを認めるなり言った。
「あれ、眼鏡? つぐみ、視力の化け物じゃなかった」
化け物て。視力がいいのは確かだけど、そういうデリカシーのない表現はやめてほしい。
「それに、なんか今日は全体的にひらひらしてるな」
今日のあたしの服装は、いつもと違った。ふんわりとしたドットフラワー柄のワンピースに、踵が高めのサンダル。ネネちゃんの(資料の)洋服を借りて、思いっきりガーリーなコーデを組んだのだ。いつもはパーカーにスキニーパンツのようなラフな出で立ちが多いので、なんだか落ち着かない。
「変なの。まあ、いいか。行こう、行こう」
変なのとは何だ、変なのとは! こみあげる言葉を、ぐっとこらえる。
スイスイと歩き始めた奏汰を、あたしは追いかける。休日の駅前は、春の陽気に誘われた人々が行き交っていた。
「ところで買い物って、なに?」
奏汰が言った。
「……プレゼント」
「プレゼント? 誰の?」
あたしは自分を指差す。
「ん? 自分へのご褒美ってやつ?」
「違う。あたしにプレゼント買って」
言ってて無茶がある。しかし、必要なイベントだ。初めてもらったプレゼントを無くして、ヒロインが泣く。それが筋書きだった。
「まあ、いいけど。バイト代入ったし。何がほしいの?」
「なんでもいい。奏汰に選んでほしい」
「そうだな……つぐみが喜びそうなものなあ」
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