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「腹減ったなあ」
駅から少し離れた公園で花見と洒落込んでいると、奏汰が言った。
「お弁当、作ってきたよ」
今回のお弁当はネネちゃん伝授のレシピに基づいて作った。卵焼きが焦げていたり、タコさんウインナーの表皮が全壊していたり、あえて目に見える失敗を施してある。
特に異彩を放つのは、おむすびだった。
「とにかく丸く! 鬼のように硬く! 味付けは塩ではなく砂糖で!」
ネネちゃんの言葉を思い出す。この特殊なお弁当を、嫌な顔ひとつせず食べてくれるのが、いい男の条件なのだという。
「丸い! 硬い! 甘い!」
おむすびを頬張った奏汰の感想は、これ以上ないほど率直なものだった。
「どうしたんだよ。つぐみの料理、いつもは美味しいのに」
あたしは、まあそうなるよねーと半笑いでやり過ごす。
「あー変な味。あ、これ飲む?」
そう言って、奏汰がコンビニで買ったパックのコーヒー牛乳を手渡してくる。
あたしは、それを受け取りストローに口をつける。間接キスというやつだが、あたしたちにとってこれは日常茶飯事の行為で、ときめきなんて生まれるはずもなかった。
「なあなあ、さっきのミニカー、俺が組み立ててやるよ。電池も買ったし、試走しようぜ」
奏汰が目を輝かせる。あたしは肩をすくめて、「どうぞ」とこたえる。
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