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「すげー! 速い!」
ミニカーを追いかけるその姿を見て、あたしは途方に暮れた。
こりゃあ、駄目だ。少女漫画の力を借りるなんて、茶番もいいところだ。
あたしたちは何も変わらない。何も実らない。恋なんて程遠い……なんで、こうなんだろう。
春の日だまりの中で、あたしは無性に泣きたくなった。悲しいとも、情けないとも違う、ないものねだりの涙だった。
「あれ、つぐみちゃん?」
ふと顔をあげると、犬の散歩をしている由奈ちゃんが目の前に立っていた。
「由奈ちゃん……」
「偶然だね。ひとり……?」
「いけ―っ! サイクロン・ブレード!」
奏汰の掛け声が飛んできて、由奈ちゃんが振り返る。
「奏汰くん……急用ができたって、そういうことだったの? 私への嫌がらせ?」
由奈ちゃんがジトリとあたしを睨む。
違う、と言いかけて、あたしは口を噤んだ。むしろ、こんな事態に陥る可能性があることは、覚悟の上だったはずだ。
「サイテー。いいよね、幼馴染は。もう学校で私に話しかけないでね」
由奈ちゃんはそう言い放って、この場を去った。リードに繋がれた牙剥き出しのトイプードルが、あたしに向かって吠えていた。
本当にサイテーだ、あたしは。こんな茶番のために友達を傷つけて、自分勝手に恋する少女を演じようとして、だけど結局何も変わらなくて……ほんと、サイテーでバカみたいだ。
「つぐみ、どうした?」
うつむくあたしに気づいた奏汰が声を掛けてきた。
「……めた……」
「え?」
「もう、やめた!」
「なにをっ?」と驚く奏汰を残して、あたしはその場から走り去った。
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