奇跡の引きこもり

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 今日こそは!  今日からは! 何度そう思ったことだろう。 でも、その先にあるのは  また今日も家から出れなかった  また今日も働いてない そんな絶望しかない。 「こんな生活いつまで続けるんだ?」 両親に言われるけど自分が1番そう思ってるよ。 「もう明日から来なくていいから」 そんな一言で、外に出ることが怖くなった。情けない話だけど、ほんと小さなきっかけで変わっちゃうんだよな。人生って。 今日も明るい外から遮光カーテンをひき、 パソコンの灯りにのめり込む。 何となく開くのは、最近ハマっているチャットサービスだ。 ユーザーネームは「奇跡の引きこもり」 自虐ネタだが「奇跡の」を付けることで何となく良い感じに聞こえてに気に入っている。 昼間のチャットサービスには、自分のようなどうしようも無いやつらがいっぱいいて安心するのだ。 『だれかいるか〜』 書き込むとスグにコメントが付いた 『ユーザーネームワロタww』 空欄のアイコンとユーザーネーム。 あれ?ユーザーネーム無しなんて出来ないはずじゃ? まあ、名無しの君。俺の名前に目を付けるとは、なかなかいいセンスじゃないか。 『伊達に30年引きこもってないぞww』 渾身の自虐ネタをぶち込んだ。さあ、どう来る? 『ほう、私の方が上だな』 ま さ か の 先 輩 初めての展開にオレは動揺した。 いつもなら『マジか…』とか『ヤバ…』とかドン引きされるのがオチなのに。これは色々と話を聞きたい。 『先輩!どれくらい引きこもられておりますか!!』 引きこもるという動詞を尊敬語にするというレア体験をしつつ、正直ワクワクだった。他人の不幸は蜜の味と言うが、自分より悪い状況の人を見て安心するのは人間の性だ。 『うーん、、この世界が生まれてからだから、どれくらいだろう、、、 覚えてないけど、数百億年前かな??』 ……… ち が っ た これやばい人だ。引きこもってる間に頭がおかしくなってしまったのか、可哀想に。 いずれはオレもそうなんのかな。ひえー、、、 どう返信したらいいんだよ。とりあえず刺激しないように… 『スゴすぎるであります!引きこもりの先輩にアドバイスもらいたいです!』 よし。何でも来い、オレは暇だからなんでも受け止めるぞ、ヤバい名無しさん。 『アドバイスと言うか、単純に思うこと言っていい?この話は全然信じなくていいんだけど。 この世界に"生まれる"時って、「元々いる世界」から電車みたいなのに乗らなきゃいけないの。 わかる?銀河鉄道みたいなやつね!』 あ〜〜、スピリチュアル系ね。 オレ、この後勧誘とかされるのかな? ヤバいかな?と思いつつ、好奇心には勝てない。 続きを待つ。 『その鉄道みたいなのに乗って、降りると この世に生を受けることになるのね。でも、私はそれがずっとイヤすぎてw だって電車乗って降りた先スゴい忙しそうなんだもん。だから電車乗らずに、数百億年ずーっと引きこもって遠くから眺める生活をしてるわけ。 とりあえず、「奇跡の引きこもり」さんが今この世に生きているってことは、1回は電車に乗ってきたってことなんだよね。 だから、あなたは私からしたら「引きこも」ってないの。勇気を出して電車に乗って“生まれて”きた人。 私にとってはスゴすぎるのよ!! ハンドルネーム譲りなさい!ww』 …おぉ…なんかすごい理論だ… これは、この人なりの励ましなのか……? 『マジっすか!!ちょっとオレには難しいとこもあるかな…ww ハンドルネームは気に入ってるんでwwいくら先輩でも譲れないっす!』 とりあえず当たり障りない感じで でも、本音もちょっと入れて返してみる。 『まあ、そうだよね!!www 変な勧誘とかはしないから安心してもらって良いよ! 最初に言ったように私の話は信じなくていいからね〜!でも、これは私の中での真実だし、私が「奇跡の引きこもり」さんに思うことも、真実だからね! 本当に私からしたらあなたは「奇跡の電車男」かな?wwww私なんて1回も電車のった事ないからw』 勧誘はされないのか、安心した。(ちょっとがっかりもした。)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加