温泉宿で

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温泉宿で

 「おはよう、結翔」  「お、おはようございますっ!今日はよろしくお願いしますっ!」  いつもと同じように僕の家まで迎えに来てくれた蓮先輩。  いつもと違うのは行先が学校ではなくて温泉って所。  ドキドキしながら蓮先輩に駆け寄ると、僕が片方の肩に掛けたままにしていたリュックをヒョイっと取って。  「ん、こちらこそよろしくな。忘れもんは無い?もう向かっても大丈夫?」  「忘れ物は無いと思いますっ!昨日も今日の朝もたくさんチェックしましたし大丈夫なはず・・・!」  「よし、じゃあ行くか」  「はいっ!」  機嫌が良さそうにニコニコと笑っている蓮先輩はサラリと僕の手を取って駅の方向へ歩き出した。  「あ、あの、蓮先輩?僕荷物持てますよ?」  歩き出す時に返してもらえると思っていたリュックは蓮先輩の肩に引っ掛かったままで、慌てて蓮先輩の手をクイって引っ張ったんだけど。  「んー?俺そんなに荷物無いし大丈夫。俺が持ちたいから持ってんの。それに片手は俺と手を繋ぐために空けておいてもらいたいし?」  悪戯っぽい笑みを浮かべた蓮先輩はそう言って繋いだ手を自分の方へ引き寄せて、僕の手の甲にチュッて軽いキスを落とした。  「ふぁ!?」  「な、だからいいの。それより行こう?早く旅館で結翔と過ごしたい」  「は、はいぃ・・・!」  完敗だ。  こんなのもうそれでも持ちますなんて言えない・・・!うむむ・・・蓮先輩のイケメンっ!!!!    そんなふうに思いながらも、上機嫌な蓮先輩に手を引かれて駅へ向かった。  道中、温泉が楽しみだって事とか、僕と温泉街をぶらつきたいしたくさん一緒に写真が撮りたい、なんてすごく楽しそうに蓮先輩が話すから。  いつもよりハイテンションでなんだか可愛い蓮先輩が見れて、僕はすでに心臓がキュンってしてたまんなくなっちゃて、初体験がどうのとか緊張がどうのとかが頭からすっ飛んでしまっていた。  でも実は僕、どこの旅館に泊まるのかまだ知らないんだよね。  どこの温泉に行くかは2人で相談して決めたんだけど、「お宿は俺が調べて予約してもいいか?当日のサプライズにしたい」って蓮先輩にお願いされたんだ。  僕、蓮先輩と一緒に居られるならどこでも良かったし、蓮先輩がすごく楽しそうにお宿を探してたからその辺は全部お任せしちゃったんだよね。  どんな旅館なんだろう?知らないからか余計にワクワクしちゃう!  電車の中でソワソワしながら蓮先輩に聞いてみたけど、「もうすぐだから楽しみにしといて?」ってニンマリ笑われてしまった。  ニンマリで悪戯っこみたいな蓮先輩、可愛いよぅ・・・!  ───電車に乗り継いでたどり着いた場所は、昔ながらの温泉街で。  蓮先輩が予約してくれていた旅館は、そんな温泉街の1番奥にあった。  どっしりとしたその旅館は古いはずなのにそれを趣として魅せているすごく素敵なお宿で。高校生が2人で泊まるには少しお高いんじゃ無いかってちょっと財布をチラ見してしまった。  僕、物欲無い方だからお年玉とお小遣いの貯金が結構溜まってて。コレを貯めてたのは今使うためだっ!って意気揚々としっかり引き出してきたから大丈夫だと思うけどね。  蓮先輩に先に宿代聞いておけば良かったかな?って思って蓮先輩を見上げたけど、ちょうど受付の人が夕食の時間や朝食の時間とか注意事項とかの説明をはじめたから慌ててそちらに意識を戻した。  まぁ流石にコレだけあれば僕の分は大丈夫だろうし、またチェックアウトの時に聞けばいいか!  夕食は7時からで朝食は6時半から9時までのバイキングだって。温泉も楽しみだけどご飯も楽しみだなぁ・・・!  
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