温泉宿で

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 カラン、コロン、と2人が歩みを進める度に足元から鳴る涼やかな音。  せっかくだから浴衣で歩きたいねってふたりで浴衣に着替えて外に出た。  蓮先輩はスタイル抜群だから浴衣も凄く似合っていて・・・。なんだか色気が増し増しって感じ。  その色気に当てられて最初はずっと真っ赤なまま顔の熱が引かなかったんだけど、何故だか蓮先輩が僕の浴衣姿を見て可愛い可愛いって壊れたラジオみたいにずーっと言ってるからなんだか面白くなっちゃって落ち着いちゃった。  それにしても、だ。  外に出てから物凄い視線。本当凄い見られてる。  僕じゃなくて、蓮先輩が。  周りの女の人達の視線を掻っ攫ってる蓮先輩。なんならきっとカップルで来たのであろうどなたかの彼女さんの視線まで奪っちゃってる。彼氏さん、必死で気を引こうとしててちょっと可哀想になってくるなぁ・・・。付き合ってどのくらいなんだろう?他によそ見するような恋人さんで良いのかな?  なんて、わざとちょっと思考をズラす僕。  だってさ、蓮先輩が格好良いのはもちろん分かってるし、視線が引き寄せられちゃうのは僕もそうだから分かるんだけど。  「やだめちゃくちゃイケメン〜!声かけてみる?」  「一緒にいる子、弟君なのかな?手繋いでる可愛い〜!」  「あんな冷たそうなイケメンがブラコンとかギャップ萌えってやつ〜!」  等々。聞こえてくるんですよ。僕弟じゃないもん。蓮先輩の恋人だもん。蓮先輩は僕のだもんっ!って心の中でベーって舌を出して言い返してみたり。  そんな事を考えてたら勝手に僕の口はとんがっちゃってたみたいで。  「結翔?どうした?歩くの早かったか?」  蓮先輩に心配かけちゃった。  「んーん、何でもないですっ!大丈夫ですよ!次、どこのお店見ましょうか?」  せっかく蓮先輩と旅行に来たのに心配かけちゃダメじゃんって反省して、何でもない風ににぱって笑って蓮先輩を見上げたんだけど。  あれ・・・?蓮先輩めっちゃ眉間に皺がよってる!?  「・・・・・・蓮先輩?」  「結翔、ちゃんと言って?怒ったりしないから」  恐る恐る蓮先輩に声をかけると、ハッとした蓮先輩が慌てて頭を撫でながらそう言ってくれて。せっかくの旅行なのに周りの視線に嫉妬?しちゃった、なんて言うの申し訳ないけど・・・でも蓮先輩に言えって言われて言わないとか僕の選択肢に存在しないし。  「えと・・・、本当、全然大したこと無いんですけど・・・」  「ん、教えて?」  「あの、周りの女の人達がさっきからずっと蓮先輩の事すっごく見てて。蓮先輩、格好良いからしょうがないって分かってるんです、けど・・・。でも、僕は弟じゃなくて蓮先輩の恋人なのにって。蓮先輩は僕のなのにって、思っちゃって。ごめんなさい・・・」  話しているうちに自分の女々しさに眉が下がっていく。呆れられちゃわないかなって自然と下がっていた視線をチラリと上へ上げると、蓮先輩が何故か目をまん丸にして口元を隠していて。  「えっと・・・蓮先輩?」  思ったよりくだらない事だったってびっくりしちゃったのかな?って申し訳なく思いながら呼びかけると、蓮先輩がひとつ、大きく息を吐いた。  「・・・っべぇ、可愛すぎてこんな所でキスしちまいそうになった」  ボソリ、とそう呟いた蓮先輩に今度は僕の目がまん丸になる。  「嫉妬、してくれたのか?それはそれで結翔が俺の事すげぇ好きっぽくて嬉しいけどさ、俺は結翔しか見てねぇから安心して良いのに。正直その辺の女とかどぉでもいいし1ミクロンも興味ねぇな。結翔の全部は俺のだし、俺の全部は結翔のだ。結翔が恥ずかしがるだろうからやんねぇけどさ、俺は今すぐにだって抱きしめてキスして結翔は俺のもんだって見せつけてやりてぇくらいなんだけど」  蓮先輩の言ってくれた事を頭が理解していくについれてどんどん顔が熱くなっていく。こう、胸がぎゅうーってなる感じで、わぁーって感じ。  それをどうにか伝えたいんだけど、どうしても言葉にならなくて口をハクハクとさせてしまう。  それでもこの嬉しい気持ちと蓮先輩が大好きだって気持ちを今すぐ伝えたくて。キョロりと周りを見回して見つけた暗くて細い路地裏へ蓮先輩を引っ張っていく。  真っ赤になって口をハクハクさせたと思ったら急に無言で手を引かれてどこかへ連れて行かれはじめた蓮先輩はびっくりしてて。でも結翔?って問いかけながらも僕の進む方にちゃんと着いてきてくれた。  やっと、人目がない路地裏にたどり着いた僕は蓮先輩の首に手を回して、蓮先輩を引き寄せた。  キョトンとしたままされるがままになってくれた蓮先輩は僕が引っ張ると少し頭を下げてくれて。降りてきた背伸びしてもギリギリ届かない蓮先輩の唇に僕の唇をむちゅっ!て押し付けた。  このどうしようもなく嬉しい気持ちも、どうしようもなく蓮先輩が大好きで堪らないこの気持ちも全部全部蓮先輩に届きますように、ってしばらく唇を押し付けた後、ちゅって音を立ててゆっくりと離した。  「蓮先輩、だいすき」  キスをした事でぐわーってしてたのがちょっと落ち着くと結局、僕の口からはだいすき、が零れ落ちて。  そのまま蓮先輩を見上げてヘラりと笑った。  「あー・・・くっそ。せっかく我慢してあげてたのに。結翔は俺を煽るのが上手いな?」  僕からのキスに目をまん丸にして驚いていた蓮先輩は、グッて何かを堪えるような顔をしながらそう言って。  僕の後頭部を掴むみたいに固定してそれからしばらく深い深いキスを落とされ続けた。  「・・・んっ、ふ、ぁん・・・っ!はぁ・・・」  「・・・・・・結翔、愛してるよ。旅館戻ったらちゃんと深く繋がろうな?体も全部、俺のにさせて?」  ちゅぷっと音を立てて銀の糸を繋げたまま蓮先輩が至近距離でそんなふうに言うから。  深いキスでトロトロになってしまったのもあわせて、僕の顔の赤みはしばらく収まらなかった。  
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