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肩に留まったり頭に留まったり指に留まったり、オカメインコは私によく懐いている。孵化仕立ての雛の頃から真心込めて育てているからだろう。黄色い鶏冠、円らな瞳、桃色の嘴、赤い頬、白い翼、どれをとっても愛らしい。
春の或る休日も昼間暖かかったので私はオカメインコを肩に乗せて公園を散歩していた。麗らかな日和で桜が満開で心まで自然と晴れ晴れして華やぐ。それとは対照的にベンチに項垂れながら座っている女性が目に留まった。
見るからに侘しげで垂れたワンレングスの前髪で顔が隠れている。明らかに不幸な雰囲気が彼女の周囲に立ち込めていたが、何を思ったか、我がオカメインコが飛び立ったかと思うと彼女の方へまっしぐらに飛んで行き、なんと彼女の肩に留まってしまったではないか!その瞬間、不幸な雰囲気を吹き飛ばしてしまうかと思われる勢いで彼女が顔を上げ、オカメインコにびっくりしながらも微笑みかけた。
嗚呼、何という春らしい優美な笑顔。オカメインコはヒュイ!と甲高く鳴いたかと思うと春風に乗って軽快に飛んで来て私の肩に戻った。彼女はオカメインコを目で追い、私はオカメインコが彼女の息吹を運んでくれたように感じたから私たちは自ずと目が合った。だからオカメインコが私たちを引き合わせたようなものだった。
年の頃は十八九だろうか、生気を取り戻した目が春の日差しを浴びて爛々と輝いている。
「こんにちわ」と私が声をかけると、その途端、彼女は遜った上、気恥ずかしそうな気色になって、こんにちわと返した。
最初、私は自分が大分お兄さんに見えたからだと思ったが、彼女の不憫さ優美さを動物的勘で察したからこそオカメインコは彼女の肩に留まったんだと思えてならなかったし、この出会いを無意味にしたくなかったから彼女に近づいて行って猶も話しかけた。
「この辺にお住まいですか?」
「え、ええ」と彼女が依然として遜った上、気恥ずかしそうにしてから縋るような目つきに変わると、私は断然、乗り気になって言った。
「僕もなんですよ。○○町に住んでるものですから偶にここで散歩するんですが、あなたもお独りで?」
「ええ、でも、私、散歩に来たんじゃないんです」
「じゃあ、桜を見に来られた?」
「いえ、私、実は・・・」と彼女は口籠ったが、縋るような目を潤まして真に迫って言った。「三日前から家を失ったんです!助けてください!」
「えっ、と言うと?」
「家計を支えていた父がコロナ禍の煽りを受けて半年前に失業して三ヶ月分の家賃を滞納して立ち退きを言い渡され、その後、家族離散して独りぼっちになっちゃったんです!」と言葉尻で彼女は叫ぶなり泣き崩れた。
ホームレスになって公園に住み着いた訳か・・・これから女性として世に羽ばたこうという時期に何という悲惨な運命。しかし、この御時世、珍しいことではない。私は同情せずにはいられなかったし、彼女の醸し出すオカメインコをも惹きつける優美さに惹かれていたし、彼女もオカメインコに惹かれ僕にも惹かれているらしく直ぐにも救って欲しい気配が漲っているから是非とも受け入れたい気になった。で、俯いてしまった彼女と目線を合わせようと膝に手を当て上体を屈めて言った。
「僕のオカメインコもあなたのことを好きになったようだし、どうです、僕のアパートに来ませんか?」
すると、彼女はややあって泣き止んで徐に顔を上げ、紅涙に濡れそぼった顔に微笑を湛えた際、オカメインコのように頬が赤くなった。それは明らかにOKのサインだった。
実際に付き合ってみないと、うまくいくか分からないし、給料が低いから共働きじゃないと、やって行けないけど、オカメインコのお陰で今日から私は新たなパートナーを得たのであった。
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