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俺の反応に戸惑ったように目を彷徨わせた恵は、頬を引き攣らせながら顔に無理やり笑顔を貼り付けた。
「あ、…はは、私がこんな可愛い水着…変だよね!」
「…え、」
「動きずらいし…、やっぱり自分で持ってきた水着に着替えてくる…」
「は?!…おい!」
俺と一切目を合わせず、体を翻した彼女。その拍子に起こった小さな波が俺のところに届いた瞬間、慌てて彼女の背中を追った。
「ちょっと待てよ…!」
「…っ、」
手首を掴んで動きを止めるが、恵はこちらを振り向かない。
「…恵?」
「え、…何?…ど、どうしたの?」
「どうしたの…じゃなくて。…とりあえずこっち見て?」
「…」
俺が指示したっていうのに答えない恵。
今どんな顔をしているのか気になって…こっち向け、という意味を込めて強く腕を引いたが、それでも恵は動かない。
「…お前のくせに、俺のこと無視してんじゃねーよ。」
「…ごめん、でも…今、ひどい顔してるから。」
「…」
ポツリとつぶやいた恵。
こんな時でも、俺の目は恵のうなじから背中の滑らかなラインに見とれて…男って、好きな子の前では本当にただの猿だなって思い知る。
「恵、いいからこっち向け。命令。」
「……やだ、」
「…はぁあっ?」
頑なな恵に次第に苛立つ俺。早く彼女の顔が見たくて、無理やり腕を引き直すと、「わ、」と小さく声を上げた恵がようやくこちらを向いた。
「…っ、」
「…み、見ないで…要…っ、」
そう言って、両方の肘と手首をピッタリ引っ付けて、胸元から顔まで隠した恵。
その顔は、手からはみ出た部分だけでも十分分かるほど、
…真っ赤な熱に侵されていた。
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