クズな君とは、さよならだ。【完】

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「恵、飯まだー?珍しく早く帰ってこれたのに待たせんじゃねーよ」 「ちょっと待ってってば、急に連絡受けて来てあげてんのに…文句言わないで」 テレビの中の天使の笑顔、なんてとんだ嘘っぱち。 視聴者は知らない。綺麗なのはこいつの顔だけで心の中はドブよりも汚いクズだってことを。 こいつとの関係は物心つく前に始まっていた。 幼い頃から召使いのようにこき使われていた私は大人になっても関係は変わらず、なぜかこの歳になってまでこいつの世話をさせられている。 電話が来れば要の家に向かって、彼のいない間に掃除洗濯。 なぜこんなことをしているのか自分でも分からない。 彼女じゃないのか?って…聞かれそうだけど、それは断じて違うのだ。 本当にただの幼なじみ。 それなのに、こいつに着いて行くように上京してきて、24歳というまあまあの歳になるまで彼のお世話をしている。 その異常さについては、重々に承知しているつもりだ。 彼女でも何でもないただの幼馴染なのだから、「あんたの世話をする筋合いなんてない!」とつっぱねてしまえばそれでいい話なのに。 「お、やった唐揚げだ」 「…っ、ちょっと!」 揚げ物をしていれば、背後から近づいてきて私の腹部に腕を回した要。 私が慌てて注意の声を上げた頃にはもう遅く。 「…あっつ、」 「…っバカ!」 跳ねた油に手を引っ込めた彼の手首を掴みながら、慌ててIHのスイッチを切る。 引っ張るようにシンクに連れて行き、思い切り蛇口をあげて要の手を冷水にさらす。 「…」 「油使ってるときにキッチン来ないでっていつも言ってるでしょ?!顔に火傷でもしたらどうすんのよ」 「…」 ひとしきり彼の手を冷やし終えて、目の前に掲げてみる。 じっくりと観察すると、手の甲の一部が少しだけ赤くなっているが、跡にはならなそうだ。 手に少し絆創膏を貼るだけでファンの間では話題になってしまう、そんな世の中だ。 よかった。この程度なら少し時間が経てば赤みも引くだろう。 「もう…気をつけてよ。あんた一人の体じゃないんだから…」 「…、」 ため息混じりにつぶやいて、彼の手を離そうと力を緩めた。 しかし、 「…え、ちょっと…!」 私の動きに逆らうように彼の手が、私の手のひらに絡みついた。
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