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「来週、実家帰るぞ。お前の家挨拶に行くから連絡しといて?」
「あ、うん。」
ケーキを取り分けながら淡々と段取りしていく要に、まだ夢見心地な私はついていけない。
さっきから左手を掲げては、輝く指輪にうっとりして…絶対に自分のものにはならないと諦めていた、彼の綺麗な横顔にもうっとりして…
…要には悪いけど今後の段取りを考えるより、しばらくの間はこの現状に浸っていたい。
「ねぇ、要」
「ん…何?」
ソファーで隣に座っていた要に声をかけると、こちらを向いた要が私の両脇に手を差し込み、自分の方に引き寄せる。
名前を呼んだだけなのに、何故かいつのまにかソファーの上で抱きしめられる体制。
別に嫌じゃないけど…むしろ…嬉しいけど、いつもと少し違う甘い雰囲気にどう反応すればいいか困ってしまう。
「…あの、要?」
「だから何だよ」
「指輪…何でこんなにぴったりなの?」
「は…?」
「サイズは?いつから用意してたの…?指輪ってすぐできるものじゃないよね?」
話し出したら、聞きたいことが息を吐く暇もなくポンポンと口から飛び出てきた。
要は僅かに瞳を開いて、少しの間の後に「うるせえなあ…」とそっぽを向く。
…いつも通り、またはぐらかされるのか。
そう、答えをもらうことを諦めかけた時…
「お前のことは全部知ってんの。俺を舐めんな、バーカ」
「…っ」
なんて、言葉はひどいのに…優しく笑って頭を撫でる要。
答えにはなってない。なっていないけど…
ああ…もう、どうでもいいや…そんなこと。って、
赤く染まる顔を要の胸に押し当てた。
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