今日から私は自由です

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 初めて見たのは、サキが生まれた日だった。 「これから、僕はパパになるんだね」  そう言いながら幸せそうな微笑みと共に涙を溢していた。あの頃がもしかしたら一番幸せだったのかもしれない。  サキが生まれて、2人で子育てをして、平均的な幸せな家庭になると信じ込んでいた。そんな私に突きつけられたのは、ワンオペ育児だった。 「休日くらいサキのこと、見てよ」  私の心からのSOSに彼から返ってきた言葉は、「僕だって疲れてるんだよ」だった。そんな思い出ばっかり。  喧嘩も何度もした。助けてくれない彼に、懇々と育児とは、どれだけ私が大変かと伝えてきた。 「僕が悪いってこと? 仕事だって」  言い訳ばかりの言葉に耳を塞いで、諦めたのはサキが一歳になった頃だった。もうこの人には何を言っても無駄なんだと悟ってしまったから。  昔のことを思い返しながら荷物を纏めていたら、いつのまにか夕方になっていたらしい。こんな時だってお腹は空く。ぐぅっと鳴いた胃を軽く撫でてから、考える。サキが成人するまで婚姻関係を保っていたのは、私の意地だった。 「あのさ、カレー作ったから食べない?」  振り返れば気まずそうに、いつもの癖で頭を描く彼がいた。喧嘩の後は、ご飯で機嫌を取る癖も変わらない。 「食べるわ」  ムッとした顔で食卓につけば、いつもと変わらない彼のカレー。カレーだけは私が作るよりも美味しくて、気に食わなかった。そんなところすら癪に触る時点で終わってたんだなと、今になって気がつく。
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