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ちゅんちゅんと鳴く鳥の鳴き声で目を覚ます。こんなにゆっくり眠れたのは、いつぶりだっただろうか。
ぐぅっと背伸びをしたら、部屋の壁際に積まれた段ボールが目に入った。今日からは、私の睡魔を邪魔する人も、誰かのお世話をする必要もない。新しいここからの人生何をしようか。
枕元のスマホが震えて、メッセージが表示された。
「映画を見に行きませんか」
丁寧なお誘いの言葉に、少し悩んでから返信を書き込む。
「物による」
既読は付いたけれど、なかなか返信は来ない。何を選べば私が来るかを考えているんだろう。最初からそうやって、時々気を遣っていてくれればよかったのに。
カーテンの隙間から窓の外を眺めれば、出勤するスーツ姿の男性。登校中の小学生。みんなそれぞれ、自分の居場所へと歩き出していた。
カーテンを閉めてからもう一度布団に潜り込む。今日は目一杯寝てしまおう。幸せな夢の中で、将来のことでも考えよう。
うとうとと落ちてくる瞼に身を任せる。暖かい布団に包まれながら数え上げる、いつか、いつかと先延ばしにしてきた夢を。
<了>
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