最後の望み

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 出迎えたルイーズは緊張していたけれど、どこか吹っ切れた表情をしていた。サロンで書類を差し出され、一通り読んでサインをする。義父のバークリー公爵は娘の認知を求めたけれど、僕はそれは拒否していた。バークリー公爵家の養女なら、勝手にすればいい。 「アンと、名付けましたけれど……」  リンダとかいうあのメイドではなく、看護婦らしい女に抱かれた赤ん坊を示されたが、僕は首を振った。その娘は僕の子ではなく、リンダとおそらくは医者の娘だ。赤ん坊に罪はないからせいぜい、可愛がって育ててくれと思う。  僕は一晩だけの滞在で、すぐに発つことにしていた。リンダのいない邸では、当たり前だが僕の身体の不調は起きなかったけれど、もう今さら、ルイーズの寝台に押し掛けるべきではないだろう。結局、一度もあの部屋に入らないままの、どちらにも不幸な結婚生活だった。僕が戦場で死ねば、改めて相応しい婿を迎えることができる。その男と、僕の愚かさを嗤えばいい。
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