ユージーンという男

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ユージーンという男

 僕、ユージーン・ロックフォードは三年前に、戦争に出掛けた。――北の強大な帝国との戦争に。  強い愛国心のためにやむにやまれず、などと周囲の者は言うが、なぜわざわざそんな危険を冒したのか、今の僕にはわからない。とにかく、妻と娘を置いて出征し、大砲に吹っ飛ばされて大怪我をした。  奇跡的に命は助かったけれど、左目と記憶を失った。  戦地の野戦病院に収容された時点では、全身の骨折と打撲、顔面の火傷と眼球損傷で命も危うかった。数日意識がなく、目が覚めた後は、すべての記憶を失い、名前すらわからなかった。従卒だったケネス・ウィルソンが僕の居場所を探しまわり、入院している重症の身許不明の患者の特徴から、僕ではないかと疑い、他の部隊にいた知り合いの証言より、僕の身許はようやく確定されたという。野戦病院から動かせるようになるまで数か月。その後、戦地に近い友好国の大病院で、体のリハビリと左目と額の火傷の治療を行い、王都に戻ってくるまで、怪我をしてから一年近くかかった。――結局、僕の記憶は戻らないままだ。  その間に知らされたのが、僕自身の極めて複雑な身の上。
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