ユージーンという男

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 言い換えれば、僕の現在の爵位も将来の地位も領地も財産も、すべては妻との結婚によって得たものなのだ。今、左目を失い、顔には醜い火傷まで負ってしまった。さらに記憶すらない。  妻、レディ・ルイーズが僕を拒絶した場合、僕はどうなるのか――。  国王と母、そして義父であるバークリー公爵が協議した結果、僕はひとまず実家にあたるロックフォード伯爵邸で療養することにしたが、何しろ記憶がないのでいろいろと居心地がよくない。ときどき、母を名乗る着飾った中年女――公妾らしいから、滅多なことは言えないけれど――が見舞いに来ては、僕の崩れた左半面と、記憶が戻らないことに癇癪(ヒステリー)を起し、僕をさらに憂鬱にさせた。  眠れない夜が続き、毎晩悪夢にうなされる。見覚えのない自称・友人どもが入れ替わり立ち代わりにやってきては、全く憶えのない、僕の女性関係の武勇伝を語ってくれるのも、反応に窮する。  周囲の人間は皆、昔の自分のことを知っているのに、自分は自分のことがわからない。このストレスが僕には耐えられなかった。  僕は、田舎の、誰も知らないようなところで療養したいと言った。
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