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この場合、僕が引っ込む田舎として最もふさわしいのは僕自身の家、ゴルボーン・ハウス――つまりバークリー公爵家の領地だ。
義父のバークリー公爵は、記憶の戻らない僕を、妻の待つ家に帰すことに難色を示した。僕たちは結婚して五年、僕が出征して三年になるが、僕は二年の結婚生活のほとんどを王都で過ごし、領地にはいつかなかったという。それでも出征直前には子供も生まれているというし、妻は妻なのだと思うのだが……。
左目を失い、半分火傷で爛れてしまった醜い顔。これを妻にさらすのは怖い。怯えられ、嫌悪され、離婚を要求されるかもしれない。
だが、逃げ回っているわけにもいかないと僕が言えば、バークリー公爵は渋々、僕をゴルボーンハウスに引き取ることに同意した。本来ならば公爵が同道したかったようだが、ちょうど戦後の処理が長引き、閣僚である公爵は王都を離れることができなかった。
それで僕は、従僕のケネスと二人だけで、王都から旅をしてきたのだ。
――もしかしたら、妻と会えば何か思い出すかもしれない。たとえ思い出せなくとも、彼女は僕の妻だ。僕が残りの人生を生きていくに際し、まず頼るべきは彼女なのだ。
そんなほのかな期待もあって、僕はバークリー領にやってきたのだが――。
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