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「……君は僕が怪我をして左目を失ったから、僕との離縁を望んでいるのか?」
その瞬間、部屋の空気がぐっと冷えるのを感じる。妻は一瞬、紫色の瞳を見開いたが、だが口を開いたのはグレイグ夫人であった。
「おそれながら旦那様――」
「いいのよ、グレイグ夫人」
妻がグレイグ夫人の反論を留め、ため息をついた。
「何もかも忘れていらっしゃる方に、何を言っても無意味ですわ。――ただ、この結婚は、わたくしどもの方から、どうこうできる類のものではございませんの。王命でございましたから」
「もともと、王命で仕方なく結婚した、と?」
僕の声が震えているが、どうしようもない。妻は長い睫毛を伏せ、囁くように言った。
「少なくとも、わたくしから望んだ結婚ではございません。それはあなたの方もそうでした」
そのいかにも儚げな様子も非常に美しくて、僕からしたら過ぎた妻だと思うのだが、なんと元から嫌われていたとは! 衝撃だ。……だが待て、子供はいるんだ。子供が生まれているってことは、要するにそういうことだ。愛のない結婚とはいえ、そこそこ上手くやっていたってことだろう。……負傷する前なら。
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