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美人妻
――そう言えば、僕が数か月療養していた間、妻は見舞いどころか手紙一つ寄越さなかったな……。まさか僕たちは不仲? こんな美人妻と?
戸惑う僕をじっと見つめ、妻はドレスを持ち上げて上品に腰をかがめる。
「……お帰りなさいませ、旦那様」
「あ、……ああ」
しっとりしているのに、甲高くない、甘い声。声も満点じゃないか。この妻に対し、僕が不満を抱いたとは思えないから、妻が僕を嫌い? いやでもな、いくら嫌いでも三年ぶりの夫に冷たくない?
僕は慌てて立ち上がろとして、しかし膝をテーブルに引っ掛け、ガシャンとカップを倒してしまう。
「あ……」
テーブルに零れていく紅茶を見ても、僕はなすすべもない。
グレイグ夫人がさっと、布巾でお茶を拭ぐう。
「新しいのをお淹れいたします」
「その……すまない。距離感がわからなくて……」
僕が言い訳がましく言えば、妻が言った。
「お座りになって。大丈夫ですわ」
僕がおとなしく腰を下ろすと、彼女は僕の近くに来て、顔を覗き込む。――片側の目を、包帯でくるんだ顔を。だから僕も必然的に見返した。
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