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僕は二十五歳らしい。結婚したのは五年前だというし、子供もいるのだから、妻も二十過ぎと予想していたが、少女のように若く初々しい。とても子供がいるようには見えない。
そうだ、子供だよ。出征直前に娘が生まれたって。なのにこの冷たさ?
僕はただただ、妻の態度に戸惑う。金色の長い睫毛に縁どられたアメジスト色の瞳に、値踏みするように見つめられて、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
なんだろう、妻、っていうのはもっとこう――。
「……まだ痛みますの?」
……妻は僕の包帯の巻かれた左目を気にしているらしい。
「いや、普通ににしていれば。……ときどき、引き攣るけど。他は問題ない」
彼女は振り返ると、呼んだ。
「アンをこちらへ。お父様にご挨拶を」
薄紫のドレスに白いエプロンを着けた女が、二歳ばかりの小さな子供を抱いて、前に出る。
「お嬢様、お父様ですよ?」
「おとーたま?」
小さな子供が舌ったらずに言い、僕の顔を見る。赤茶色の髪に、ヘーゼルの瞳。鼻の頭にはそばかすが散って、一言で言うと平凡な容姿だ。
僕は妻の顔と見比べる。――少なくとも、妻にはまるで似ていない。
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