293人が本棚に入れています
本棚に追加
僕自身、顔の半分が無くなるまでは、容姿端麗だと言われていたらしい。実際、右側だけならそれなりの顔だと思う。そこにいる妻は表情が硬い以外は申し分のない美貌だ。
僕と妻とを掛け合わせて、この平凡な娘が生まれたとしたら、少し残念だ。
そんなことを思ってしまい、僕は慌てて咳払いをする。娘は僕の顔をじっと見て、包帯に覆われた左半分に首を傾げる。
「おとーたま、おけが?」
「そう、お父様は戦争で大きな怪我をなさったの。でもだいぶよくなったのですって」
妻が横から言う。
「あなたはまだ、生まれたばかりだったから、お父様のことは覚えていないわね。……もうすぐ三歳になりますの」
「う……」
僕は何と答えていいかわからない。……娘がいるとは聞いていたが、記憶もないし何の感慨もわかない。
「その……名前は……」
「アン、ですわ。洗礼名はテレーズ。わたくしどもはアンか、アニーと呼んでおりますけれど」
「そ、そう……アン」
アンが手を伸ばしてくるのを、乳母らしい女がぎょっと止めようとしたが、僕はその場の流れでアンを抱きとった。
最初のコメントを投稿しよう!