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――思ったより軽いような、重いような。柔らかくて不思議な感覚がした。
が、その時、妻をはじめとする女たちが皆、息を飲んだ。
僕が、子供を抱き上げてはいけなかったのか?
僕が周囲を見回すと、妻がすぐに表情を消し、言った。
「そう、よかったわね。ご挨拶も済んだし、アンはあちらで、おやつをいただいていらっしゃい。お父様が王都のお土産に、チョコレートを持ってきてくださったのよ」
乳母が僕から子供を受け取ると、一礼して下がっていく。
彼らを見送って、妻は僕に向かい、言った。
「まずはご無事のお帰りを。……お手紙に書かれていた事情は、本当のことですのね」
妻が、アメジストの瞳で僕をまっすぐに見る。僕は居心地の悪い気分で、姿勢を正した。
「ああ……その、記憶がなくて……何もわからない。全部……」
僕の言葉に、執事のサンダースも家政婦のグレイグ夫人も複雑な表情で僕を見た。それから、僕の背後の、ケネスを。
「……ケネスは、僕の従卒で、戦地でもよく仕えてくれて……彼がいなかったら僕が僕だと証明されないところだった」
ケネスが背後で、無言で頭を下げる。
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