春 Gyroscopic

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 「むり、」  「え?」  「むりがある、」  「え?」  「むりがあるだろ」  「ええ?」  樹林の如く聳えるビル群に凶暴性を増した春の風に遮られて、友人の呟きはまったく聴き取れない。  「なに? きこえない、」  ぼくの声ははっきりと届いているのか、アサはうろんげな、そのくせむだに鋭い目でこちらに一瞥を投げてくる。と、  「あ、」  さっさと区立図書館裏へ入っていってしまった。  「あぁ、もう、」  悪いやつではないけれど、わりとけっこうメンドクサイ。ため息を一つ、そのあとを追った。
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