21人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「急いで✕✕を呼んで!」
私は精一杯叫んだ。だけど、どうしてだろう。肝心なところが発音できない。
「は? 何が?」
「だから、✕✕!」
ほら、言葉にしようとすると、何かに書き消されたみたいに消えてしまう。
「どうしたの? 私多忙なの。構ってられなくてごめんだけどさ、しっかりしてよね」
同僚のユウは、忙しそうにあちこち動いていて私を軽くあしらう。確かに、私よりは多くの事柄を担当しているから大変かもしれないけど、それにしたって今は一大事なの。世界が混乱するのも時間の問題。一刻も早く呼び戻さないと大変なことになる。
文字にしたり、心に思っている分には問題なく文字を変換できるけど、なぜだか声に出して言おうとすると、まるで言葉を忘れたように言えなくなってしまう。
それもそのはず。だって、誰が何と言っても、その文字がこの場所から逃げ出してしまったのだから。
最初のコメントを投稿しよう!