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その目は、おれを見ているようで見ていない。空虚な瞳だった。こんな妻の目――初めて見た。
「どのみちあなたは、家では、在宅勤務する以外は、ゲームに野球に明け暮れて、啓介のことなんか一切見ようとしなかったじゃない。
だったら同じよ。お金を入れてくれるだけで、あなたは、いても、いなくても、変わらない。寝室も別、生活スタイルも別。ご飯を作るのはいつもわたし。洗濯や掃除をするのもいつもわたしだけ。――だったら、同じよ。
目の前にあなたがいないほうが、よっぽど、平和で、快適に、暮らせるわ」
普段はあまり喋らない妻に一気に言われ、おれは、返す言葉もなかった。
言いたいことだけ言って、妻は結局、週末には、啓介を連れて、出て行った。
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