◆01. 「妻は何故、自分と離婚したいなどと言うのでしょう」by 夫。【夫の章】

7/7
前へ
/68ページ
次へ
 その目は、おれを見ているようで見ていない。空虚な瞳だった。こんな妻の目――初めて見た。 「どのみちあなたは、家では、在宅勤務する以外は、ゲームに野球に明け暮れて、啓介のことなんか一切見ようとしなかったじゃない。  だったら同じよ。お金を入れてくれるだけで、あなたは、いても、いなくても、変わらない。寝室も別、生活スタイルも別。ご飯を作るのはいつもわたし。洗濯や掃除をするのもいつもわたしだけ。――だったら、同じよ。  目の前にあなたがいないほうが、よっぽど、平和で、快適に、暮らせるわ」  普段はあまり喋らない妻に一気に言われ、おれは、返す言葉もなかった。  言いたいことだけ言って、妻は結局、週末には、啓介を連れて、出て行った。  *
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

644人が本棚に入れています
本棚に追加