Phase 02 毒蜘蛛からタランチュラへ

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六甲アイランド。 それは三宮のある中央区から少し離れた場所にある東灘区のウォーターフロントだ。数々のビルやタワーマンションが(そび)え立っており、神戸でも指折りのセレブの街として知られている。 普段兵庫県でセレブの街といえば芦屋や西宮を浮かべる人が多いだろう。しかし神戸市内となると話は別である。芦屋からほど近いというのもあるのだが、東灘区は神戸市内でも屈指の学生街でありセレブ街でもあるのだ。 そんな六甲アイランドのとあるビルの屋上に、盛山定輔はオフィスを構えている。定輔の職業は飲食店及びホストクラブ・キャバクラの経営者であり、西田仁美がおとり捜査を行ったバタフライの他にも多数の店舗を経営している。 「バタフライが警察に割れた。あの店は稼ぎ頭だったのに潰すしかない。」 定輔は頭を抱えていた。自分の店が警察に割れたのだから当然である。 「しかしバタフライを潰したところで他にもホストクラブはあるしこのご時世だからデリヘル事業に手を出すのも悪くはない。僕は無敵だ。半グレの中の王だからな!」 高笑いをしながら、定輔は勝ち誇った顔をしていた。 ヤクザのフロント企業やシノギと違い、半グレによるビジネスは表社会で通用する。故に警察に割れる可能性は低い。今回のバタフライの件が奇跡的なレベルである。 盛山定輔という人物自体も表向きは若き会社社長であり、裏の顔を知る者は少ない。半グレというのはメンバーの移り変わりが激しいが、定輔がタランチュラのリーダーになったのは港北大学(こうほくだいがく)在学中にとあるサークルに加入したからである。 そのサークルと言うのは端的に言えば「楽をして金を稼ぐためのサークル」であり、定輔はソレが半グレによるサークルだとは知らなかったのである。結果的にカリスマ性を持っていた定輔は祀り上げられるようになり、やがてタランチュラのリーダーになったのだ。 「さてと、今日もユースタライブやろうかな。同接(どうせつ)は・・・おっ、10万人越えたのは初めてだ。」 ユースタライブとはユースタグラムというSNSを利用したユースタグラムライブの略であり、所謂動画配信サービスである。ユースタライバーと言うのは動画配信者の中でもカリスマ性を持った配信者のことを指し、最近では生身の人間ではなく虚構(バーチャル)の人間であるバーチャルユースタライバーも登場している。 「今日は僕の生い立ちについて配信しようと思います。僕は貧しい家で生まれました。だから他の子を見返そうと思って必死で勉強しました。その結果、港北大学という難関校に入学することが出来ました。港北大学では主に経営学を学んでいましたが、とあるサークルに加入して考えが変わりました。そのサークルは『楽をして金を稼ぐ』というサークルであり、最初は怪しいと思っていました。しかし実際にサークルに入ってみると、濡れ手で(あわ)。一晩で1000万円稼いだこともありました。稼ぐための秘訣?それはナイショです。今日は僕の配信に付き合ってくれてありがとうございました!次回もまた見てくださいね!」 配信を終えた定輔は、高級そうな赤ワインに口を付けた。しかしそれが半グレで稼いだ黒い金によるワインだということを知る者は少ない。 「さて、秘密の仕事を始めようか。」 定輔の言う秘密の仕事とは、当然違法風俗店のことだろう。
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