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タランチュラの悪行は違法風俗店の運営だけではない。
違法薬物の売買、裏カジノの運営、地下格闘技団体の運営・・・。
仁美の同僚の巡査に聞いたところ、タランチュラに関する相談は組織犯罪対策課だけではなく少年課にも寄せられていたという。
「最近、神港高校の生徒が裏バイトに巻き込まれるという相談が寄せられた。これももしかしたらタランチュラとかいう奴の仕業かも知れない。仁美君、一刻も早くタランチュラは壊滅させないと拙いことになる。」
「矢張りそうでしたか。最近三宮でよく見る高収入のアドトラックも、もしかしたらタランチュラ関連の企業かもしれないですね。私が関わることになったのは関連企業であるホストクラブへのおとり捜査。なんでも、ホストに貢いだ女性を違法風俗店へと斡旋しているとか。この事例に関しては私の友人も被害に遭っている。だから尚更許せないんだ。」
仁美は覚悟を決めていた。あの友人のためにも、この組織は壊滅させないといけない。
後日、古谷善太郎が再び生田署を訪れた。
おとり捜査の詳しいブリーフィング、及び最近のホストに貢ぐ女性の傾向のレクチャーだった。仁美はお察しの通り女子力があまり高くない。故に最近のファッションには疎かったのだ。いかにしてホストにモテるか、いかにしてホストを引っ掛けるのか。その日のレクチャーは22時まで続いた。
「古谷さん、今日はありがとうございました。大変参考になりました。」
「西田君、君は潜入捜査官としての素質があるかも知れない。もし西田君の刑事への昇格が決まったら、僕の元でおとり捜査の協力を行ってもらうかもしれない。その時はよろしく頼んだよ。」
「潜入捜査官かぁ。案外悪くはないな。」
仁美はドヤ顔を見せた。
おとり捜査当日、仁美は今時の成績の悪そうな女子大学生のような格好をしていた。これは古谷善太郎からレクチャーを受けたファッションである。そして、おとり捜査を行うにあたり偽名も考えた。鬼退治の漫画からヒントを得た「胡蝶アリサ」だった。我ながらイカしたネーミングだと仁美は思っていた。
しかし、正直おとり捜査に関して不安も感じていた。
もしもこの捜査が失敗したら組織犯罪対策課の存亡に繋がりかねない。
組織犯罪対策課の存亡は、一人の婦警のおとり捜査に託された。
順調におとり捜査を行う中、タランチュラのメンバーと思しき男性を引っ掛けることに成功した。名前は押尾勇気といい、その見た目は半グレ集団でなければ異性からはかなりモテそうなのではと仁美は思った。
しかし、押尾勇気の周りには恰幅の良いボディーガードを侍らせていた。彼も彼で警察に捕まることを恐れているのだろう。
押尾勇気に対して話を聞き出し、更に違法風俗店の住所まで聞き出すことに成功した。
仁美の心拍数は上がっていた。かなり緊張していたのだ。
そして、古谷善太郎が傍受していた喫茶店に戻ると、よくやったと言ってくれた。
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