Phase 0.5 僕のお母さん

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Phase 0.5 僕のお母さん

僕の母親はスナックのママとして働いていた。僕が子供の頃は「スナック」と聞くとお菓子のことだと思っていた。そして「水商売」と聞くと水を売る仕事のことだと思っていた。しかし現実には夜の街でお客さんにお酒を提供する仕事だと知ったのは僕が高校生に入学してからだった。  僕は父親がいない。つまりシングルマザーの元で育ったのだ。僕の父親はギャンブル依存症であり、度重なる生活苦により堪忍袋の緒が切れた母親が父親に三行半(みくだりはん)を突きつけたのは僕が小学生の時だった。当然父親がいないから僕は学校でもいじめられることが多かった。中学生の時には自殺も考えた。校舎の屋上から飛び降りようとしたのである。しかし足が竦んで飛べなかった。こうして自殺は諦め、僕は日陰の中で生きることを決意した。  そんな僕の運命を狂わせる出来事が発生したのは高校生の時だった。母親の仕事の手伝いをしていると、突然奇妙なジャージを来た僕と同じぐらいの少年たちが入店してきた。僕は母親と違い夜の神戸の裏事情には疎かったからそれが暴走族だとは思わなかった。暴走族たちは母親の服を脱がせ、馬乗りになって暴行を加えたのだ。つまり暴走族たちは僕の母親を犯しに来たのだった。  見知らぬ少年に犯される僕の母親。母親の苦しむ表情と喘ぎ声。強姦に狂乱する少年たち。  僕はただただこの世のものとは思えない地獄絵図を見つめるしかなかった。    後日インターネットで調べたところ、僕の母親を犯した暴走族は「毒蜘蛛(どくぐも)」と呼ばれる暴走族であり、2005年当時の神戸の夜の街では悪名を轟かせていたのだ。  暴走族というとお揃いの特攻服と呼ばれるジャージを着てバイクを蒸しながら夜の街を駆け出すイメージが強いが、一方で強姦や万引き、違法ドラッグに手を出す暴走族も少なくない。そういう暴走族が大人になると「半グレ」と呼ばれる犯罪集団になり、かつて神戸を恐怖のどん底に陥れた組織である暴力団の衰退に合わせるように半グレは勢いを増すことになった。そして、毒蜘蛛もまた「タランチュラ」と呼ばれる半グレ集団へと変貌した。 僕はこの半グレ集団を壊滅させるために必死で勉強して警察官になった。そして自ら希望して半グレを専門に扱う兵庫県警組織犯罪対策局の組織犯罪対策課に配属されることになった。それは僕が35歳になったときのことだった。
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