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後を経たないタランチュラによる悪行。
表面化する暴力団とのつながり。
それは、園田紋次郎による闇カジノの潜入捜査で明らかになった。
タランチュラのバックについているのは恐らく山谷組だろう。
――僕は、警察官として2つの巨大な組織を敵に回した。そして、両方ともこの手で握りつぶしてやる。
10月下旬。
世間ではハロウィン一色だが、組織犯罪対策局の空気は張り詰めていた。
僕と仁美による「スパイダー」の摘発が10月31日の夜に決まったからだ。
「ハロウィンの夜に摘発って、なんだかワクワクしますね。」
「そうだな。どうせなら仮装した状態で摘発したい。」
「古谷君、意外と冗談言うんですね。ペシッ。」
僕は仁美に頭をはたかれた。
「痛いな。そりゃ僕だってたまには冗談言いますよ。」
「ふーん。面白いじゃん。ちょっと古谷君のこと気に入っちゃったかも。」
「気にいるのは勝手にしろ。とにかく、10月31日の晩に乗り込むからな。」
こうして、僕と仁美はオレンジ色に染まる三宮の街を見ながら語り合っていた。
10月30日。
摘発前日。アタシは眠れなかった。
園田さんの協力もあったんだろうけども、闇カジノの捜査はここまで順調だ。あとはアタシと古谷君が「スパイダー」に乗り込めばすべてが終わる。
けれども、アタシは不安だった。
アタシは今まで古谷君の足を引っ張ってばかりだったからだ。
違法風俗店摘発では攫われて犯されたし、薬物汚染事件ではアタシの身勝手な行動から覚醒剤を打たれそうになった。今度こそ、古谷君と一緒にタランチュラをこの手で捕まえたい。
アタシは不安になったのでスマホのビデオチャットで母親を呼び出した。
「オカン、こんな時間にごめん。」
「仁美ちゃん、もしかして明日のことが不安でかけてきたの?」
「うん。」
「仁美ちゃんは強い子だ。だから大丈夫、きっと上手くいく。」
「ありがとう、ちょっとだけ頑張れる気がするよ。」
アタシの目には、何故か涙が浮かんでいた。
「頑張れ!アンタは立派なヒーローだよ!」
母親は親指を立ててエールを送ってくれた。
そのエールを、アタシは受け取った。
ビデオチャットを終えてスマホの時計を見ると、時刻は0時を回っていた。
これは拙い。アタシは、ヒーローのぬいぐるみを抱きしめながら眠りについた。
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