56人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここからちょっと離れた場所に福原って場所があるのは知っているよね。君にはそこで働いてもらう。もちろん親の許可はいらない。僕はハミングバードっていうキャバクラで待っている。スマホに地図を転送しておくから、明日にでも来てくれたら嬉しいな。」
「ありがとうございます!明日、そこに来ます!」
こうして仁美は嬉しそうに店内から出ていった。
「古谷さん!やりました!違法風俗店の情報を掴みました!」
仁美は僕に興奮気味に話した。
「違法風俗店の名前はハミングバードです。場所は福原。まぁ大方の予想通りでしょう。古谷さんから受け取った使い捨てのスマホに地図もバッチリ書いてあります。」
「福原のど真ん中に堂々と違法風俗店か。何かの罠としか思えないが、ここは刑事の直感を信じよう。明日、兵庫県警の組織犯罪対策課が総出でガサ入れを行うことにする。」
そう言いつつも、僕は胸の中が騒騒としていた。あからさまな罠に仁美がかかるとは思えない。だから僕は仁美のことが心配だった。
その夜、僕は中々寝付けなかった。夜と言っても実際にはもう明け方である。潜入捜査自体が22時から深夜0時の間に行われたから当然である。喫茶店の閉店時間が迫る中、僕はウェイターのお姉さんに謝りつつ温いコーヒーを飲んでいた。仁美が潜入捜査から戻ってきたのは喫茶店の閉店時間である午前0時ギリギリである。ふとスマホの画面を見ると時計は23時57分を指していた。それから署に戻って捜査レポートをまとめ、仮眠室で仮眠を取ろうとしていた時には午前2時を回っていた。
空が段々と明るくなる中、僕は目を閉じた。夢なんて見る暇もなく、午前7時には目を醒ますことになった。
「大泉警部、これが今回の捜査レポートです。西田婦警は大手柄でした。」
「古谷君、君は本当にタランチュラを壊滅させたいんだな。その信念が時に諸刃の剣になる可能性も高い。しかし、君のその情熱は認めよう。今晩、組織犯罪対策課一同で違法風俗店のハミングバードを摘発する。そしてタランチュラの尻尾を少しでも掴むのが我々の役目だ!とは言え蜘蛛に尻尾は無いが。」
「冗談はともかく、これでタランチュラを壊滅に追い込みましょう!僕の天国の母親のためにも!」
予想通りの罠だと分かっていたとしても、僕はあの組織を壊滅に追い込みたかった。それが僕の復讐なのだから。
そして、摘発の前に僕は少し寄り道をした。神戸駅の近くにある都市型墓地だ。僕の母親はここに納骨されている。
「お母さん、僕は今日、お母さんを犯したグループを摘発する。これでお母さんが少しでも浮かばれたら良いけどな。」
そう言いながら、僕は手を合わせてお祈りをした。
やがて日が落ちると、僕は兵庫県警の組織犯罪対策課の刑事たちと合流した。
「摘発する店舗はハミングバード。福原の中心部にある違法風俗店です。最初に僕が乗り込むから、刑事たちは続けて乗り込むんだ。そしてタランチュラをこの手で壊滅させる。」
19時59分。
摘発開始1分前。僕の心臓の鼓動は早くなっていた。こういうときこそ冷静さを保つのが刑事の信条である。けれども、今の僕はそういう状況ではなかった。
20時00分。摘発開始。僕の心臓は爆発しそうなほど強く鼓動していた。
「兵庫県警組織犯罪対策局組織犯罪対策課の古谷善太郎だッ!ハミングバードを半グレが経営する違法風俗店として摘発するッ!」
しかし、店内は蛻の殻だった。店内には女性客がいなければ男性スタッフもいない。まさに伽藍の洞である。しかしいかがわしいピンク色の照明は付いている。
すると、店内から喘ぎ声が聴こえた。
「ああっ。ううっ。はぁはぁ。」
おそらく肉体的なサービスを施している最中だろう。
「大泉警部、喘ぎ声が聴こえるけどこの状態で摘発しても大丈夫なんだろうか。」
「喘ぎ声が何だ。俺たちが摘発するんだ。」
僕と大泉警部はピンク色の照明が付いている部屋へと向かった。
「誰かいるか?警察だッ!」
すると部屋の中では少年と少女が肉体的な営みを行っていた。
「あーん、イキそうだったのにぃ。」
「子供同士で大人の生殖活動の真似事か・・・。それはともかく、この店の責任者はどこへ行った?」
「押尾君?それとも盛山君?それなら2人共この店からから逃げ出したよ。なんでも警察の人がバタフライっていうホストクラブを捜査していたらしくて、お店も多分今日潰れたと思うよ。」
「くそッ、ずらかったか。」
僕は思わず奥歯を噛み締めた。
「ところで、西田仁美っていう警察官は知らない?多分ここに来ていると思うんだけど・・・。」
「あの婦警さん?それなら押尾君と一緒に何処かへ行ったはずだけどな。そういえば何か薬を嗅がせていたような・・・。」
あどけない裸の少女の発言に対して、僕の心臓は早鐘を打っていた。
仁美が押尾勇気に攫われたのは紛れもない事実である。一刻も早く助け出さないと僕のおとり捜査は賽の河原になってしまう。
「・・・分かった。まずは西田仁美を助け出す。話はそれからだ!」
こうして、僕は兵庫県警の職員ではなく、一人の女性として西田仁美を救出することを決意した。
19時30分。
「ここがハミングバードか。一応おとり捜査の責任は私にあるんだしまずは挨拶しておかないと。一応これでも柔道は黒帯持ちだし空手は初段。たとえ襲われたとしてもなんとかなるでしょ。」
しかし、仁美の判断は間違っていた。
「こんばんは!昨日はありがとうございました。押尾勇気君はいますか?」
「僕は押尾じゃなくて盛山ですけど・・・。あっ、押尾君来ましたよ。」
押尾勇気の手にはスタンガンが握られていた。
「テメェ、警察官だな!良くも俺を騙しやがって!」
「はいはい。私は警察官ですよ。観念しなさいッ!」
「それはどうかな。」
刹那、仁美は痺れるような感覚を覚えた。スタンガンが当てられたのだろう。そして薬を嗅がされそのまま眠るように意識を失くしてしまった。
意識が戻っていく。
縛られた躰。
塞がれた口。
壊されたスマホ。
破かれた警察手帳。
どこかの倉庫に囚われた仁美は憐れもない姿だった。
「おはよう、婦警さん。今の気分はどうかな?」
「んー!んー!んー!」
猿轡を噛まされた仁美は何も喋ることが出来なかった。
「君、スタイル良いし、このまま犯しちゃおうかな?」
仁美の心臓の鼓動が早くなる。自分はこのまま強姦されてしまうのだろう。
そして、覚悟を決めて瞼を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!