Phase 02 毒蜘蛛からタランチュラへ

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Phase 02 毒蜘蛛からタランチュラへ

そもそもの話、神戸と言うのは特殊な街だ。暴力団が裏社会のみならず表社会で幅を利かせていたためである。阪神大震災で市民が被災する中、暴力団によるチャリティ活動が行われたぐらいである。しかし、度重なる抗争と分裂で暴力団の勢いは衰退。 そして、暴力団の勢いが衰退すると同時に暴走族が犯罪に手を染めるようになった。これが半グレの始まりと言われている。   もともと神戸には毒蜘蛛という暴走族がいたが、矢張り彼らもまた半グレへと変貌していった。そのきっかけとなったのが2005年に発生したスナック強姦事件である。被害者は一人で店を切り盛りしていた古谷沙織。彼女は夜の神戸でも顔が広く、政財界へのコネクションも持っていたほどである。故に反社会的勢力に狙われることも多く、度々敵対する抗争相手の暴力団からの襲撃も日常茶飯事だった。しかし暴走族からの襲撃は彼女も予想していなかっただろう。 目撃者で古谷沙織の息子である古谷善太郎は記者に対して次のように語っている。 「店の手伝いをしていると突然特攻服を着た少年たちが店に入ってきた。最初は恐喝かと思ったけれども、突然お母さんの服を脱がしてきた。そして暴走族のリーダーと思しき少年がズボンとパンツを脱いで陰茎を顕(あらわ)にした。そして少年とお母さんは一つになった。僕は何も出来なかった。ただただ苦痛に喘ぐお母さんを見つめるしかなかった。」(週刊文潮 2006年1月号 半グレ――神戸に(うごめ)く闇の組織より) 恰幅の良い男は色褪せた週刊誌の記事を見て鼻で笑っていた。 「あの頃は若気の至りだったな。多少のヤンチャも許された。しかし今ではこうやって裏社会の情報屋をやっている。いざとなれば兵庫県警へのリークも辞さない構えだ。しかしあの強姦事件は俺がやったわけではない。副長の欽一くんがやったんだ。アイツは毒蜘蛛の中でも絶倫だった。だからああいうことも許されたんだ。しかし強姦が悪いことだと知ったのはアイツがキャバ嬢を犯して豚箱にブチ込まれたからだ。前科も含めて懲役5年だったか。よく死刑から免れたと思うよ。」 ここは三宮の裏路地にある雑居ビルである。元々はぼったくり飲食店が入っていた物件であり、所謂居抜き物件だ。 ぼったくり飲食店も半グレの資金源とされることが多い。夜の街中を歩いていると「キャッチ」と呼ばれる男性に遭遇することがあるかもしれない。彼らは何も知らない客をぼったくり飲食店へと誘い、粗悪な料理に対して多額の金額を請求するのだ。当然金銭トラブルになることも多い。とある疫病(えきびょう)が夜の街を(むしば)んでからはぼったくり飲食店は大幅に減ったが、最近ではデリバリーサービスやテイクアウトサービスを悪用したぼったくり飲食店の事例も多数報告されているのだ。  「稲川さんって本当に暴走族や半グレから足を洗ったんですね。かつては神戸の暴走族で天下を取った伝説を持つ隊長って聞いていたんですけど。」 「そうだ。俺だって善悪の判断は付く。ただただ神戸の街をバイクで爆走している分には構わないが、犯罪に手を染めるようじゃダメだ。だから俺は毒蜘蛛、いや、タランチュラに対して見切りを付けた。」
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