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兄さんの病気が発覚してから、俺にも使われるはずだったお金はほとんどが兄さんのために費やされた。塾に行かせてもらえるわけでもなく、そのくせ両親は俺が医者になることを望んだ。
しかし、それは、俺自身への期待ではなく、代わりに夢を叶えて俺に兄さんの姿を投影するため――。
真っ暗闇の天井をにらみつけると、胸の中にぐろぐろとしたものが渦巻く。
黙り込んだ俺に兄さんはぽつりとつぶやいた。
「怖い」
どの口が言う。
俺はやり場をなくしたそれを握りつぶした。
兄さんはいつ見舞いに行っても明るく迎えてくれた。幼いころから頼りがいのある強いひとだった。辛い治療が続いても、治ることを信じて涙一つ見せなかった。その兄さんが、怖い? あり得ないに決まっている。
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