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「何言ってんだよ、らしくないな」
「お前に言うのはお門違いだって。そんなの知ってる。」
「何、言って」
「でも、怖い。現実を知るのが。怖いんだよ。」
兄さんの声が震えている。窓の外で冷たくもある光を放つ月に向けられた虚ろな目には透明な薄い膜が揺れていた。唇を噛み、なにかが壊れるのを必死にこらえているように見えた。
――こんなに弱い兄さんは、見たことがない。
「らしくないな。こんなに弱い兄さん、見たことない」
俺は、もう一度そう言った。俺がついさっき鋭利な刃で切りつけてできた傷口に、塩を塗り込んでいるとも気づかずに。
兄さんは、空虚な笑みを浮かべて言った。
「はは、そうだよな。いつも『兄』は強いもんな。」
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