燃ゆる瞳

1/4

251人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ

燃ゆる瞳

「手を上げろ」  一瞬、セフィアスを真似たノワールの声だと思った。跡形もなくなった扉の向こうに月色の髪を見た瞬間、シャーロットは止まっていた心臓が動きだしたような気がした。 「セフィアスっ……!」  憲兵に扮したセフィアスは、ノワールの後頭部に銃口を突きつけながら、「どなたとお間違えですか?」と爽やかな笑みを浮かべた。船室の外が騒がしくなり、ぞろぞろと海兵たちが入ってくる。 「詐欺師ノワール、貴様を逮捕する。罪状を聞くか?」 「違う違う。天才(・・)詐欺師だよ憲兵くん」 「連れて行け」 「はっ!」  セフィアスの指示により、海兵たちがノワールを取り囲んだ。しぶしぶといった様子でシャーロットの上から退いたノワールが、苦笑しながら両手を上げる。 「ねぇ海兵くん、その色男の正体は怪盗ビスクドールだよ」  ノワールの言葉に、一人が「何だと?」と眉をひそめた。他の海兵たちの表情も一斉に険しくなり、シャーロットは息をのむ。 「失礼ですが身分証を」 「あぁ、かまわない」  余裕たっぷりに海兵たちを見渡すセフィアスの傍ら、気が気でないシャーロットは、同じく憲兵に扮した見覚えのある大男に視線を送った……が、返されたウインクに寒気がして、すっと視線をそらした。 「ルーファス・エヴァン……大佐?……しっ、失礼しました!」 「ははっ、気にするな。屈強な海兵の皆さんからすれば、この俺は貧弱にみえても仕方がない」 「そんな、とんでもありません!」 「その男の連行を頼めるか? あいにく我々には急務がある」 「はっ、勿論であります!」 「では我々は先に失礼する。見送りはけっこう」  左右に分かれて列を作った海兵たちに敬礼を送られながら、セフィアスは悠々とした足取りでその場を後にした。帽子のつばを下げ、笑いをこらえるように口元を歪ませて。 「セフィアス……!」  船を移ってすぐ、シャーロットはセフィアスに抱きついた。とたんに硬直したセフィアスを横目で見つつ、ナキシムは口元を手で覆った。 「何がおかしい?」 「……失礼しました」 「撃たれたところは? 平気なの?」 「説明すると長くなる」 「説明してっ!」 「まぁ落ち着け、シャーロット」 (あぁ……セフィアスが名を呼んでいる。生きている……)   「おい、どうした?」  セフィアスに抱き上げられた直後、張り詰めていた糸が切れたように、シャーロットは気を失った。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

251人が本棚に入れています
本棚に追加