絶望の船出

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「あんまり泣かれると困るな……いま口説いても逆効果だろうから、泣き顔が綺麗すぎるからなんて言わないけど」 「今すぐ私を解放して。できないというなら舌を噛んで死ぬわ」 「ここは海の上だ。解放されたところでどうしようもないだろ」 「いいの……海に飛びこんで死ぬから」  ノワールは呆れたようにため息をつき、シャーロットの涙をそっと拭った。 「どうしてそんなに命を粗末にしたがるんだい?」 「私が生きたいと願ったら、大切な人が死んでしまった。私は呪われてる……ずっと閉じ込められていたのも、きっと神様の御意志だわ。周りを不幸にする私は、独りでいるべきだと……」 「へぇ、君には神がいるのか。それじゃあさぞ幸福な人生を歩んできたんだろうね。まったくそうはみえないけど」 「……それは私のせいよ」  ノワールは「なぜ?」と穏やかな声で尋ねた。シャーロットは何も答えられなかった。 「君の神様なのに、どうして君を幸福にしないんだろうね……」  独り言のようなつぶやきが、ちくりと胸を刺す。シャーロットは「やめて」と声を震わせた。 「君を幸せにできない神様を……いいや、君を不幸にしかできない神様を信じてるなんて、君はずいぶんお人好しなんだね」 「……違う……本当は……」 『信じていなかった』──ずっと気づかないふりをしてきた自分の本心に胸をえぐられ、シャーロットは再び嗚咽をもらした。  神への祈りも忘れ、ただ自分の運命を呪い続けてきた。苦しみから逃れるために、何度も命を投げ出そうとした。 (醜いこの心のどこに、神が宿っていたというの……?) 「お前は悪魔を信じるべきだ」 「……え?」 「俺がいつかあいつに言われた言葉だよ」 「……あいつ……?」 「怪盗ビスクドール……君も知ってるだろ?」  シャーロットは思わず息を飲んだが、すぐに「知らないわ」とそっぽを向いた。 「嘘が下手だな、君は。それに知らない方が不自然だ。あいつはこの国で最も有名な犯罪者だからね……この俺を差し置いて。まさか君があいつの連れだったとは……本当に驚かされたよ」  ビスクドールの知り合いを名乗ったノワールを、シャーロットは半信半疑で見上げた。
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