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(やっと帰ったか……)
宵闇に浮かぶ月を相手に酒をあおっていたセフィアスは、ダイニングから人の気配が消えたのを察し、やれやれとため息をついた。
手下を招いて酒を飲んだことなど、これまでに一度もなかった。ジゼルを呼ぶのは掃除をさせるときだけだったし、ナキシムと飲むのは決まって酒場。……しかしそう悪くはなかったというのが、セフィアスにはどうにも腑に落ちない。これまで無益な他人との関わりは、ただ煩わしいだけだった。
グラスに酒を注ぎ足し、セフィアスは再び窓の外を仰ぎ見た。うっすらと赤い月に、なぜだか胸がざわつく。煌々と闇に君臨するその姿を見据え、セフィアスは「散々だ」と独りごちた。
シャーロットを盗んでからわずか数日で、何もかもが滅茶苦茶だ。計画が失敗に終わったのも、ぼろ切れをまとったのも……そして頬を叩かれたのも生まれて初めてだった。
入港のとき、麻袋に入れて死体のふりをさせたことに怒っていたシャーロットを思い出し、セフィアスは額に手をあて「くそっ」とつぶやいた。
(怒りたいのはこちらの方だ。思い通りにならないものを盗んだあげく仕事を休む羽目になるなんて、怪盗が聞いて呆れる……)
シャーロットが眠るベッドに近づこうとして一歩踏み出したセフィアスは、踵を返してソファに身を投げだした。寝室は他にもあるというのは、忘れたふりをして。
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