土曜日午前三時からの嫉妬

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土曜日午前三時からの嫉妬

土曜日午前三時からの何もかも忘れる時間は好きだ。 自分を何より解放できるし、姉さんの愛を何より感じることができるから。 ただ、その反面少し不安にもなる。 この関係はいけない気がするというのも勿論あるが、それ以上に姉がいつ私を見限るのか・・・それが一番怖かった。 いつ、ただの妹となってしまうのかが怖かった。 そういう時、私は素直に姉に何度でも問えばいいのに、何故か彼女を試すような行動をしてしまう。 それは姉妹同じだなと実感してしまうのだが。 「今日はこの道を通らない?」 私は表向きの恋人をそう言って誘う。 ただ、恋人といっても同性には変わりないが。 彼女はこれまた私に似ても似つかぬ可愛い少女で、このような私にこのような嘘をつかれても純粋に騙されてくれていた。 彼女が私に焦がれれば焦がれるほど、私は罪悪感にさいなまれる。 だがそれは、姉に対して持つ罪悪感に比べるとさほどたいしたことではない。 彼女は何も疑うことなく、私の言うことを聞いてくれた。だから私は彼女が好きだ。 私は彼女と手を繋いで歩く。 姉のマンションへとつながる道を。姉が帰るだろう時間に。 そして私は彼女とキスをする。 姉のマンションの前で。姉が帰るだろう時間に。 彼女の顔越しに姉が見えた気がした。 違うな。 絶対に姉はそこにいた。 なぜなら、次に迎えた土曜日午前三時のドルチェの時間の姉はどこか雰囲気が違ったから。 「今日はストロベリーのジュレね。」 「今日はこれにするの?」 「綺麗よね、赤くて。きらきら光って見えるわ。」 「食べ物にそんな色も光もいらないと思うけれど。」 「いいのよ。綺麗だからそれで。どうせ私が食べるのだから貴女が気にする必要なんてないのよ。」 いつもの会話に見えて、そうではない。 ずっと一緒にいる姉妹だからわかる。 別にどうしようかとは思っていない。私がわざとそうさせていたから。 だが、やはり姉は私より一枚も二枚も上手だ。 ジュレを選びながらも今日の一手を考えている。 私をどう悦ばせようか、全部考えているのだ。 私は姉を転がしてみようと考えてみるが、結局は姉に転がされている。 姉の家に着くと私は怒りのままに服を脱がされて、怒りのままに抱かれると思っていた。 だが姉は決してそのようなことはせずに、私をドレッサーの前に座らせた。 「姉さん?」 「今日は、私が美雪にメイクしてあげる。」 「私に?」 何を言うかと思うと突拍子もないことだ。 さすがの私も現状では、彼女が何をしたいか読めない。 「そう。美雪はいつも少しメイクしているよね。でも、やっぱり、メイクは私の方がうまいと思うのよ。だから、教えてあげようと思って。」 私が黙り込んでいると、姉は私の顔に触れだした。 「目、閉じて。」 私は言われるがまま目を閉じた。 姉が自分の瞼を触る。どうやら手で塗ってくれているようだ。 姉は私に顔を寄せる。見てはいないが、彼女の吐息がいつもキスをしているくらいの距離で聞こえるので勝手にそう思った。 「もう開けていい?」 「まだ、駄目。」 別に目はもう開いて大丈夫だろに、姉は決して言わない。 チークブラシで頬をそっと撫でられたり、筆で唇をなぞられたり、グロスの冷たい感触を感じたり。 これは、姉と抱き合って感じあっている感覚と似ている。 「目、開けて。」 姉がそう言うので目を開いて鏡を見てみた。 すると、自分の横に姉が頬を寄せて微笑んでいた。 私の顔は美しく施されていたが、姉の前では何の意味も持たない。 赤いグロスリップも、アイシャドウのラメがどれだけ輝こうとも私は姉の美しさには敵わない。 姉は、おもむろに私に口づけた。 そして折角、赤いグロスを引いてくれたのに、手も甲でそれを拭った。 折角、ラメの入ったアイシャドウをつけてくれたのに、舐めてとってしまった。 姉の手は赤くなるし、彼女が口を開けて舌を出しているのを見るときらきらとラメが光っている。 「姉さん、折角してくれたのに台無しよ。それに姉さん、そんなになってしまって。酷い有様よ。」 「そう。知っている。」 「姉さん?」 「美雪、私を試すようなことはやめて。少しばかりそんな知恵を働かせたからといって、私の方がそういうことは上手いし。私は、いつも通り綺麗な貴女を滅茶苦茶にして食べるだけ。それだけなの。」 やはり姉さんは気まぐれでドルチェを選んでいるようで、最初から決めている。 そして、彼女の不可解な行動には全て意味がある。 「姉さんは、私が何をしても嫉妬はしてくれないのね。」 「私、そういうの嫌いなの。そういう私に貴女が嫉妬して。それなら悦んで私は貴女を愛するから。」 そこで初めて私は姉に無理矢理、服を脱がされた。 彼女が私のメイクを酷い有様にしたおかげで、私の身体は真っ赤になってしまったし、ラメで光ってもいる。勿論、姉は私の身体にグロスを引いたりラメを塗りつけたりもしたので一層ひどい有様だ。 所かまわず、彼女は私にメイクを施す。 それが嫌だったり気持ちよかったりするので、私は何度も喘いでしまったが、姉は予想通りのことらしく満足気であった。 だから、私は結局姉にかなわないのだ。 少しばかりの悪知恵を働かせたところで返り討ちに逢う。 結果として、私が彼女に嫉妬しただけだ。 考えることにとても疲れてしまったので、六時を迎えるまで私は少し眠りに落ちてしまったらしい。 「私以外にそんなことしないでよ。私、頭がおかしくなりそうだから。」 姉がそんなことを言っていた気がしたが、夢うつつだったのできっと私の幻聴だったのだろう。
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