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金曜日午後九時
金曜日の午後九時。
姉が私の家に帰ってきた。
家に姉が帰ってくるなど久方ぶりだし、それ以上に今は金曜日午後九時だ。
これは、もう二人の終わりは近いのではないだろうか。
こんなにまだ愛しているのに。
私は俯き加減で姉を迎え入れた。
姉は久しぶりに妹と話したいからと私の部屋にやってきた。
確かに久しぶりに妹として話すということはあっている。
姉は私の部屋に入るとずっと黙り込んでいる。
いつもは姉から、これをしようあれをしようと提案してくれるのに。
もうそんなこともしてくれないのか。
そうか、忘れてた。
今は金曜日午後九時だからだか。
口実はないし切っ掛けすらもなくなるのだから、別に土曜日午前三時に合わせなくていい。
何もかもを思い出していれば、私たちはいつ会ってもいいのだから。
「姉さん、これからも私たちは土曜日午前三時にずっと一緒に愛し合うと思ってた。でもそれと同時にずっと終わりも考えていた。」
「・・・私もよ。ドルチェで美雪を結びつけていた。メニューを選ぶのが楽しかった。でも、メニュー表が無くなるから私は何も選べない。」
「姉さん・・・。」
「だから、私は違うファミレスでデザートを選んだ。他の女の人を愛してみたの。」
これは反論できないし、私とてこの時のために女の子と付き合っていた。
表向きもあったし、この時のためでもあった。
だから、姉もそれでいい。
今でも姉を愛しているけれど、それでいい。
そう思った矢先、姉は涙をぽろぽろと流し始めた。
「私、その人と抱き合った。とてもとても気持ち良かった。でも、最後に気持ちよくて彼女のことを美雪って呼んでしまった。よく思えば、彼女の顔も背も美雪にそっくりだった。」
「姉さん・・・?」
「私、駄目だわ。いつもいつも貴女を想っている。でも、駄目だわ。次の一手が思いつかない。」
姉はもう考えることに疲れてしまったのだろうか。
私だって疲れてる。
「どうして午前三時からドルチェを食べていたのかしら?どうして、その後は何もかもを忘れてしまったのかしら?別にいつでも愛し合えばいいのに。私はいつも何の一手を考えていたのかな。」
「姉さん・・・それは私たちが姉妹だからよ。姉妹ではなかったらそんな理由付けしなくてもいいもの。」
「そうかもしれない。でも、やっぱり私は貴女と離れたくないみたい。」
姉はそう言うと私の手にそっと自分の手を重ねてきた。
私だって姉さんと離れたくはない。
姉妹としてではなく・・・。
そんなことを言おうとしたら姉に唇を塞がれた。
土曜日午前三時ではないのに。
姉はそのまま私を押し倒そうとしたが、ギリギリのところで留めた。
やはり、今日は金曜日なのだ。
彼女もそれを思い出したのだろう。
しかし、姉を見るといつも通りの土曜日の姉に戻っていた。
そして、私の世界の中では一番美しい姉が一番美しい微笑みをして言うのだ。
「明日、あのファミレスで最後のドルチェを食べに行きましょう?何を選ぶかはちゃんと考えておくから。」
私は、また彼女の意図がわからなくて頷くしかなかった。
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